第2章 為虎添翼ー1日目ー
ー岩泉sideー
「ねえってば!何が負けないの!俺を仲間はずれにしないで!」
「うっせぇ!」
「痛いよ岩ちゃん!岩ちゃんとマッキーが俺に内緒で何かしてるからでしょ!」
食堂に向かう間、及川はずっと一人で喚いていた。
煩くて殴れば涙目になりながらもまだギャンギャン言っている。
食堂につけば、長い髪を一つに纏めてエプロンを付けた京香さんの姿に少しの間動けなくなった。
「京香ちゃん可愛いー!」
あぁ、その、すげえ…可愛いと…思った。
ん?及川の声…?…こンの…クソ川!
「クソ川!京香さんに抱き付いてんじゃねえよ!」
「痛い!岩ちゃん暴力反対!」
「良いぞー岩泉もっとやれー」
「ちょっとマッキーにまっつん酷い!助けてよ!」
「あははっ…練習で疲れてるかなって心配したけどまだ元気みたいね」
京香さんに抱き付いた及川を殴って引き剥がせば、いつものやり取りに楽しそうに笑った京香さん。その笑顔が可愛くて、自分の気持ちに気付いたからなのか直視出来ねえ。くっそ、顔があちぃ。
「流石に終わった直後は動かなかったけどな…」
「初日からハードだよね…」
「そりゃ、あと一ヶ月くらいしかないからね。今日も一日お疲れ様!たくさん食べて明日からも頑張って」
カレーを受け取れば、及川たちと机を囲む。
合宿もこれが最後か、なんて思えば高校3年間の思い出が蘇ってくる。早かったなって思っていれば及川にデコピンされた。
「岩ちゃん、まだ俺たちの高校生活は終わってないんだからね?必ず全国に行く。今度こそ」
「そーだぞ岩泉!」
「悪いが全国に行くのは烏野だ。負けないからな」
「良いぞー大地ー!」
俺たちの会話に入ってきたのは烏野主将。そりゃそうだ、こいつらだって本気で全国目指してる。だが俺たちだって負けるわけにはいかない。今度も俺たちが勝つ。
「全国は青城が、京香ちゃんは俺が貰うからね」
及川の言葉に場の空気が固まる。
睨み付ける奴が数名。あぁ、こいつらも…そうか。鈍感な俺でも流石にわかった。
ライバルは多いってことか…でも俺も引き退るつもりはねえ。
誰にも負けねぇと思えば、カレーを掻き込んだ。