第2章 為虎添翼ー1日目ー
ー岩泉sideー
変だとは思っていた。確かに及川は女が好きで周りにはいつも女子が居るのが当たり前なんだけど…ここまで1人の女に執着するってことが。
それは及川が口を滑らせたことによって納得した。
"勝利の女神様"たった一回しか記事になったことはないが、当時中学生だった俺たちにとって憧れに似た対象だった。
さっきの休憩中に言われた通りにスパイクを打ってみると、いつも以上に手にボールが吸い付いてくる感覚があった。打点が高くなった気がした。
それだけで俺は、彼女の力を実感した。
想像した以上の観察力だ。驚きの余り声を発することが出来なかった。
でもこの感覚を忘れなければ今度こそウシワカを…白鳥沢を倒して全国へ行ける。俺は強く拳を握った。
「岩ちゃん、昂ぶる気持ちはわかるけど力入りすぎないようにね」
「あぁ…そうだな」
そんな俺に気付いたのか及川が声をかけてきた。何年も一緒に居るからか、こいつにだけはバレるようだ。いや、こいつだからわかるのか…
それからスパイクを打つ度言われたことを考えながら打つ。何試合もして流石に疲れて体育館の隅に座り込むが、烏野の10番だけはまだ飛び回っていた。体力底なしかよ…
「なあ岩泉。お前京香さんのこどう思ってんの?」
「…はぁ?花巻いきなりなんだよ!」
「いやさ、やけに及川は拘ってんなって思ってよ。俺、取られる前に告白しようかと思って…」
「はぁ?!告っ…」
「わああ!声でけえよ!」
隣に座ってきた花巻がいきなり告白するとか言い出すもんだから、びっくりして声がデカくなっちまって口を塞がれる。誰のせいだよ!勝手にすりゃいいだろって思う反面、胸がモヤモヤとしてくる。それが何だかわからなくて眉間に皺を寄せると、花巻に笑われた。
「岩泉さ、俺が京香さんと付き合ったら嫌って思ったろ」
「んなこと…!」
「本当にねぇって言い切れんの?自分の気持ちに素直にならねぇと後悔することになんじゃねえの?」
「あ!いたいた!岩ちゃんとマッキーご飯行くよー」
花巻の言葉に益々わからなくなるが、確かに京香さんが誰かのモンになるってことを考えると苛々してきた。
探しにきたらしい及川に返事をして立ち上がった花巻を見上げれば、負ける気ねぇけどな!なんて笑ってた。
俺も頷いて立ち上がれば、負けねぇと笑った。