第2章 為虎添翼ー1日目ー
「…はぁ。とりあえず他言無用。いいね?」
「ごめん京香ちゃん!」
必死な顔で手を合わせている徹君を見たら怒れなくなって、次口滑らしたら怒るからねと整った髪を乱してやった。
何してんの!と慌てる徹君を囲んで貴大君と一静君が追い討ちをかけるようにぐしゃぐしゃにしていた。
そしてそのまま、こういう時はどう対応していけば良いのかと真剣に話し合う。彼らも全国に行きたいという気持ちは強いようだ。少しでも私が力になるならと、休憩中ずっと青城3年と話していた。
「ほら影山。そんな顔して睨むんじゃないぞ」
「…っす。でも澤村さんは悔しくないんすか」
「いい気分じゃないよな。でも合宿中は青城のマネだから仕方ないべ。京香さんはちゃんと俺たちもひとりひとりを見てくれているだろ?」
「…うっす」
ネットを挟んだ向こう側で、飛雄君に睨まれていたことも、それを大地君がおさめてくれていたことも。
それに気付いた徹君が満足そうに2人を見ていたことも気づかなかった。
「次の試合始めるぞー」
再び入畑監督の声がかかれば、みんなからドリンクとタオルを回収して行ってらっしゃいと背中を叩く。
そのまま何度も対戦相手をかえて試合を繰り返していく。
休憩になる度に、気になった人のとこへ行き指摘をするということを繰り返していたら夕方になっていた。
そろそろ夕食の準備しないと、と思えば潔子ちゃんと仁花ちゃんに声をかけて食堂へ向かった。
「あ、みなさんありがとうございます!昼間大変だったので夜はカレーにしちゃいましょう」
2人と話しながら食堂に行けば既に武田先生がいて、準備をしてくれていた。にこりと笑った武田先生に頷けば、エプロンをして長い髪をシュシュでまとめて夕食作りを手伝う。
練習が終わる頃には美味しそうなカレーとサラダが出来上がり、ホッと息をついた。
「選手たちが来る前に先に食べちゃいましょうか。その方が片付けとか楽ですよね」
「そうですね、そうしましょ」
武田先生の提案に頷けば4人で先にご飯を済ませた。
掃除や洗濯を任し潔子ちゃんと食堂に残れば食器の準備をする。
「「潔子さーんっ」」
「京香ちゃん可愛いー!」
数人の足音と共に聞こえた声。
近付いてきたそれをサッと避けた潔子ちゃん。
私は避けられず何かに背後から抱きしめられてしまった。