第2章 為虎添翼ー1日目ー
ゆっくり大地君の顔が近付いてくるー…
カタン、と何かが倒れた音をきっかけにハッと我にかえればお互い顔を赤くさせて離れる。見つめ合っていた時間は数秒なのか数分なのかわからないが、とても長い時間に感じた。
何だか大地君とはこういうのばかりだなと思えば思わず笑ってしまう。少し乱暴に頭を掻きながらも、笑い出した私を不思議そうに見つめる大地君に軽く謝って。
「前もこういうことあったなって思って…」
「す、すみません…あ、誰にでもこんなことしてるわけじゃないので!」
「ふふ、大丈夫わかってる。ほら、主将練習行ってらっしゃい!ありがとね大地君」
クルッとドアの方を向かせて背中をポンポンと押してやる。
大地君が体育館に向かったのをしっかりと見送れば、食器の片付けを開始する。マネージャーを頼まれているので一刻でも早く行かねばと全て綺麗にしてから駆け足で体育館に向かう。
体育館の扉を開ければ既にゲームは始まっていて、5チームで総当たりをしているようだ。
「おい京香!こっち手伝ってくんねぇか」
「あ、はーい!」
烏養コーチに呼ばれればAチームがゲームをしてる方に行った。
烏野Aチーム対恐らく青城レギュラー。
初めてこの2校がぶつかるのを見ているのだが、その気迫に目が離せなくなる。
烏野の土台が大地君であるように、青城の土台は徹君だろう。普段の雰囲気とはまるで違う。彼がみんなを心から信頼しているのがわかる、逆にみんなも徹君を信頼している動きだ。
若利は徹君だけが強いから、青城に進学したのは間違いだって言っていたけどそうじゃない。ちゃんと徹君は良いチームを作ってる。…烏野にはまだない強い絆。
青城もなんて良い学校なんだろう、私は素直にそう思った。
「どう思う?」
「どう、とは…?」
「青城に勝てると思うか?」
「うーん…五分五分、ですかね」
「やっぱりお前もそう思うか…」
目線はコートのボールを追ったまま、隣の烏養コーチに聞かれたことを正直に答えると、ガシガシと乱暴に頭を掻く姿が視界の端に映った。
「大丈夫です。烏野だけを応援してあげることは私には出来ないけど…ちゃんと成長してます。信じてあげましょ」
「あぁ…そうだな」
チラッと烏養コーチを見上げれば微笑み、またコートに視線を戻す。すると徹君と目が合って、「見てて」とウインクされた。