第2章 為虎添翼ー1日目ー
いつの間に居たんだ…
思わずビクッとして及川君の腕から逃れようとするも、ググッと力を入れられて逃れられない。ニコニコとしてるこの笑顔は絶対嘘だ。
「しかし及川"勝利の女神様"の名前は伏せられていただろう…」
「俺も確証はなかったんですがねー、京香ちゃんの反応が何よりの証拠…」
「ふむ。そのことは本当なのか?」
油断し過ぎてた。ここまで観察力があるとは…武田先生と烏養コーチに助けの目線を送っても謝られた。
ダメだ逃げられない…諦めが早いって?
こういうのは無駄に足掻いても墓穴掘るだけ。
「ええ、本当です。しかし、表沙汰にはしたくないので秘密にしておいて下さい」
「俺嬉しいなあ…気になってたんだよね、"女神様"の力」
「及川、いい加減にウ チ の京香さん離してくれないか」
相変わらず貼り付けたような笑顔を向けてくる及川君。
するとそこへ黒いオーラを纏った大地君が助け船をくれた。
いつまでも私の肩にある及川君の手を振り払ってくれたので、すかさず大地君の方へと避難する。
「酷いなあ…あ、澤村クン。京香ちゃんこっちに頂戴。ほらマネージャー居ないし大変なんだよねえ」
「何でそうなるんだよ。青城は部員が多いだろう」
「でも烏野にマネージャー3人も要らないでしょ」
「京香さんはコーチであってマネージャーじゃない」
ひぃい!なんか2人のオーラが怖いんですけど!
ちょっと監督たち練習メニューについて話してる場合じゃないでしょ!誰か止めてよ!
でもまあ…マネージャー業やってくれとは言われてたしなあ…潔子ちゃんと仁花ちゃんをこの獣の巣窟に差し出すわけにはいかない。
これは私が行くのが得策かな…
「わかった、この合宿の間青城のマネージャーするから。だから言い合いストップ。ちゃんと烏野も見るし、何なら自主練も付き合う。それで納得してくれる?及川君も大地君も」
「流石京香ちゃん。青城は歓迎するよ」
「京香さん…」
「潔子ちゃんと仁花ちゃんを青城にはやれないでしょ…ね?」
「はぁ、わかりました。でもあくまでも京香さんは烏野の人間ですからね」
「ありがとう大地君。何かあれば呼んでくれたら行くから」
嬉々としている及川君とは正反対の大地君。
渋々納得してくれて、漸く練習が始まる。