第1章 合縁奇縁
「コンクリート出身、日向翔陽です。あなたをブッ倒して全国へ行きます」
ザザザッと着地を綺麗に決めた少年は、名を名乗った。
――日向翔陽。うん、しっかりと覚えた。
相変わらず若利を見上げる視線は鋭い。
「中見せてくれてありがとうございました。失礼します」
白鳥沢の教師にでも見つかったのだろうか、若利に丁寧にお辞儀をする日向君を見れば、礼儀も備わっていることに高感度も増した。
私が満足そうにうんうんと頷いていれば、私の存在に気づいたのかぺこりと私にも挨拶してくれた。
慌てて私もぺこりと挨拶をすれば、にこっと微笑み"またね"と口パクで言ってから歩き出した日向君に手を振った。
「あの。及川さんが県内で最強のセッターなら、それを越えるの俺なんで。失礼します」
日向君を見送っていれば、黒髪の子の言葉に視線を其方へと向けた。
及川、という名前は聞いたことがある。確か白鳥沢から推薦も出ていたはず・・・
――うん、この子も申し分ない。
向上心、闘争心。実にあの二人は面白い。
日向君と同じように私にもぺこりとお辞儀をしてくれたのがわかれば、此方もお辞儀を仕返す。再びにこっと微笑めば手を振って二人を見送った。
「ねね、若利。黒髪の子の名前は?二人の高校はどこなの?」
「なんだ京香か・・・。名前はカゲヤマトビオ。烏野だ」
二人の姿が見えなくなれば、若利の隣に行ってジャージを引っ張る。
カゲヤマトビオ君ね・・・烏野高校かー楽しそうだな。なんてニヤニヤと口元を緩ませ、不思議そうに首を傾げながらも教えてくれた若利にお礼を言って、ほら練習するよ!と戻ろうとすると腕を掴まれた。
「・・・?どしたの若利」
「興味あるのか、あいつらに」
「うん、興味沸いて来ちゃった」
「そうか。だがお前は俺だけ見ていればいい」
そう言って掴んできた私の腕を離し、さっさと体育館に戻っていく若利。
いくら幼馴染だからといってもその言葉は誤解されるよ若利・・・この天然タラシめ!相変わらず無頓着なんだなぁと思いながらも、私の心は白鳥沢ではなく烏野へと傾いていた。
「大学休みのとき、見にいってみよっかな・・・」
ぽつり、誰にも聞かれないような声で呟けば私も練習に参加すべく、若利のあとを追って体育館へと戻った。