第2章 為虎添翼ー1日目ー
ー縁下sideー
合宿の朝、この5日間を思うと少し憂鬱になりそうになるが今年はちょっと違う。
「あ!京香さんだ!」
日向のその声に顔をあげると、影山と共に現れた女性。
笑顔が凄く素敵で、俺たちベンチ組もしっかりと指導してくれる。
気さくで話しやすくて、異名である"女神様"っていうのがピッタリな人。
彼女が応援してくれるのなら、見てくれるのなら…
辛い練習も乗り越えられる気がしてくる。
俺は、菅原さんみたいに送りに行ったりとかする勇気なんてないから少し遠くから見ていられれば良いって思ってる。
ふと日向が走り出したのが見えて、近くにいた西谷も行こうとしているのがわかり、危険だと思えば素早く手を伸ばして西谷の首根っこを掴んだ。
「ナイス、力!」
「はぁ…全く危ないだろ?西谷」
「うぅ、悪い。つい…」
ついじゃないよ…それだから清水先輩にビンタされるんだろうが。
近くにいた田中や木下に褒められホッとする。
西谷も一応反省してるみたいだし、俺からはもう言わないでおこうか。
京香さんがマネたちの方へ行った時、大地さんと菅原さんが紙を出してきた。何だろうと覗き込めばアミダくじのようで。
「青城へ行くまでのバスの席順、どうせモメるだろうからと思って作ってきた。京香さんの隣は星マーク。後は自由!」
やっぱりみんな、京香さんの隣に座りたいんだな。
…俺だって、もっと話したい。笑顔が見たい。
3年生の後、田中と西谷が書き込んでから俺も名前を書く。
どうか俺に京香さんと一緒にいるチャンスを下さいと願いながら。
どうやらその願いは届けられたらしい。
結果を見れば、そこには俺の名前。
いざ当たってしまうとどうしたらいいのかわからなくなるな…
田中にやったな!とバシバシ背中を叩かれれば、益々緊張してしまう。
みんながバスに乗り込んだので俺も後を追ってバスに乗り込む。
後ろは西谷と成田か…田中じゃなかっただけマシだ。
暫くすると、先生と共にバスに乗ってきた京香さん。
「アミダで勝ち取りました。隣どうぞ?」
と呼ぶと、笑顔で隣に座った京香さん。
やべ、ち、近い…!
「力君さっきはありがとう。押し潰されるかと思ったよ」
なんて笑う顔はやっぱり素敵で…
ー少しだけ、勇気を出してみようかな。