第1章 合縁奇縁
烏野高校を後にして数分、地図を片手に駅へと向かっていると赤信号で歩みを止める。
正直烏野のレベルは予想以上。
もしかしたら私が手を貸さなくても自分たちの力だけで全国へ行ける実力があるかもしれない。
でもきっと今のままじゃ若利のスパイクを受けられるのは西谷君だけ…ブロックを工夫しない限り最も簡単に白鳥沢は点を重ねていくだろう。
きっとスパイクも覚につかまる。
まあ、覚のカンがきっちり発揮されるとは限らないけど…
「京香さん!」
「!?…す、菅原君?」
暫く考え込んでいたらしい、後ろから名前を呼ぶ声にビクッとして振り返れば私に駆け寄ってくる菅原君。
「どうしたの?私忘れ物でもした?」
「はぁっ…いえ、ただ俺が駅まで送りたかっただけです。良かったー追い付いた」
「私一人で大丈夫なのに…まだ昼間だし。まあ、せっかく走ってきてくれたからお願いしようかな」
学校から走ってきたのか、練習の後で疲れているだろうに良かったと笑顔を見せてくれた菅原君。私もにこりと微笑めば彼の好意に甘えよう。自分の鞄からタオルを出せば、軽く菅原君の汗を拭いてあげる。
「え、あ、大丈夫です!俺自分のタオルあるんで!」
「そんなに慌てなくてもこれ使ってないやつだから気にしないで。よし行こっか」
「京香さんのなら使っているのでも何でもいいべ」
「ん?何か言った?」
タオルを鞄に仕舞えばボソッと続いた言葉は聞こえなくて首を傾げた。しかし、ブンブンと菅原君は首を振れば青信号に変わった横断歩道を歩き始めたので私も隣を歩く。
心なしか顔が赤い…?
菅原君が居るからスマホいらないか、と思えばそれも鞄にしまった。
「烏野…どうでした?」
「んー、正直予想以上。手を伸ばせば全国に届くかもしれないね。まあ白鳥沢が立ちはだかるけど」
「全国…行きたいです。今のメンバーが好きだから…このメンバーでもっとバレーがしたい」
「うん、本当烏野はいいところだね。凄く暖かい…気持ちで負けなければ大丈夫。菅原君がコートに立つの諦めてないってこと凄く大事」
「…京香さんに言われると嬉しいな」
なんて私たちはバレーの話をしながら、ゆっくりとした歩みで駅まで歩いた。
菅原君はわざわざ車道側を歩いてくれて、そんなことしてもらったことのない私は何だか擽ったかった。