第1章 合縁奇縁
私の制止が聞こえていないのか構わず近づいてくる影山君から距離をとろうと一歩下がる。
しかし距離をつめる彼の方が早くて、どうしようと困っていたら急にふわっと誰かに抱きしめられたような感覚がした。
「はいはい影山ストーップ!真澄さん困ってるべ」
「ス、スンマセン・・・」
「・・・澤村、君」
「真澄さん大丈夫ですか?すみません影山が・・・」
影山君を制止する声に顔を上げれば、目の前には誰かのTシャツ。どうやら私を抱きしめるように影山君から守ってくれたらしい。
誰だろうと思い、見上げた先に居たのは澤村君。
しかし制止する声は菅原君のもので・・・
ひょっこりと顔を覗かせれば、影山君の肩を押さえていたのは菅原君だった。
さすが3年。ナイスコンビ。
「大地さんやるぅ!」
「え?あっ・・・すみません俺!た、田中黙れ!」
「あ、や、大丈夫!ありがとね澤村君も菅原君も」
澤村君に抱きしめられた状態のままだったが、田中君の冷やかしにハッとしたように手を離せば、顔が真っ赤になっている。
そんな澤村君につられて私も顔を赤くすれば、彼から離れ2人にお礼を述べた。
「か、影山君も機会があればちゃんと質問に答えるからね?」
「・・!あざっす!」
「ごほん。ほらお前ら早く片付けもしちまえよー」
菅原君に制止されてしょんぼりとしてる影山君を見れば胸が痛くなって、彼に近づけばちょっと背伸びして頭を撫でる。
照れくさそうに頬を染めて頷いたのを見れば、私もにこりと微笑んだ。
烏養コーチが咳払いをして、部員達に戻るようにと言えばぞろぞろと体育館に戻って行ったので私も戻ろうかと思うと手首を掴まれてその場から動けなかった。
「烏養コーチ・・・?」
「あー、あのさ・・・その、悪かった。部員に知られちまって」
「大丈夫です。こんなに早くバレるとは思ってませんでしたけど・・・」
「そこで、なんですが・・・もし宜しければ烏野のコーチ補佐として彼等の巣立ちに協力していただけませんか?」
「・・・え?コーチ補佐・・・私がですか?」
私の手首を掴んだのは烏養コーチ。
自分のせいで部員にバレたのを悪いと思ってくれてたらしい。
いつのまにか隣に来ていた武田先生。
彼の表情はいつにも増して真剣で・・・。
軽い気持ちで言われてるんじゃないということは明確だった。