第8章 奮励努力ーsugawaraー
「要は京香さん、守ってあげたくなるようなそんな女の子に憧れてるんだべ」
散々私の話を聞いてくれていた孝支君は、ニコニコといつもの笑顔を浮かべてそう言い切った。
ズバリ言われてしまうと何だか急に恥ずかしくなってくる。
「そうハッキリ言われちゃうと…」と呟きながら恥ずかしさのあまり顔を覆えば、頭をぽすっと撫でられて。
「今でも十分、可愛い女性だよ京香さんは」
優しい孝支君の声。そんなことないっていつもは否定しているのに何故だか今日はその言葉が嬉しくて胸にスッと入ってくるようで、何も言えなくなってしまう。
そんな私を見て孝支君は小さく笑ってから、頭に乗せている手をそっと動かして子供をあやすように撫でてくれて。
「他人のことは鋭いくせに自分のこととなると鈍感で…どんなことでもいつも全力で…押しに弱くて」
「ス、ストップ!もういい!もうわかったから…!」
「…もういいの?ざーんねん。もっとたくさんあるのに」
孝支君からスラスラと述べられていることにたまらず恥ずかしくなって遮れば、クスクスと笑う姿は完全に楽しんでいて。
孝支君の手が私の頭から退くと、何だか寂しく感じてそのことに動揺する。
もっと触っていて欲しいなんて…思ってる…?
「ほ、ほら勉強!勉強再開するよ!」
その気持ちを孝支君に悟られぬよう、私が人肌恋しいだけだと自分に言い聞かせて中断していた勉強を再開させる。
再び問題集と向き合った彼を見つめる。
結構睫毛長いんだ…
指も凄く綺麗…やっぱりセッターだから気を遣ってるのかな…
仲間からの絶大な信頼があるその手を、彼を、輝かせてあげたい。
「京香さんここ、どういうこと?」
「ん?あ、えーとこれはね…」
不意に孝支君が顔を上げて此方を見たのでドキッとする。
何をボーッと見つめてたんだ私!
慌てて問題集を覗き込んで、孝支君が指をさした箇所に目を通す。
そのまま説明をすれば相槌をうちながら聞いてくれてる孝支君。
何とか誤魔化せた…かな。
それから気を引き締めた私は、孝支君の勉強の邪魔にならないようにと大学の部ノートを出して書き始めた。
来年、このノートに孝支君の名前が載ることになるかもしれないと思うと私は頬を緩ませずにはいられなかった。