第8章 奮励努力ーsugawaraー
「それ、何…?」
「ん?あ、これ?大学の部ノート。私なりに分析した選手のこと書いてあるの」
「へー、前言ってた癖とか書いてあるやつ?」
「そうそう。合宿の時に烏野と青城のも書いたんだよ」
「うちと青城の…?じゃあ俺のも?」
「当たり前じゃない。Bチームの面々もあるよ?青城は流石にレギュラー陣しかないけどね…」
暫くノートを書いていただろう、孝支君が此方を見ていたことには気付かなくて声を掛けられてハッとする。
孝支君の勉強会なのに自分のことに集中し過ぎたらしい。
この前書いた烏野と青城のノートを取り出して孝支君の前に差し出せば、「見ても良い?」なんて聞くから烏野のとこだけならねってクスクス笑って言えば「ちぇー」と唇を尖らせながらもペラッとノートをめくりはじめて。
黙ったまま真剣に私が書いたみんなの癖を読んでいる孝支君から「スゲー」という声が漏れ、私は首を傾げた。
「いや、こんな細かく書いてあるとは思わなくて…俺ってそんなに保守的?」
「そうね…孝支君のトスはテンプレートというか…教科書通りというか…良い意味でも悪い意味でもね?」
私がそう言うと黙って何かを考えるように俯いてしまった孝支君。でもね、と私が言葉を続ければその顔を上げたので視線が絡む。
「それが孝支君の良さだと思うの。こいつなら大丈夫って、スパイカーを信頼していないと出来ないもの…だから、プレイスタイルを変える必要はない。それに、孝支君は奇抜なことをしないって相手に思い込ませることが出来ればアレの効果が上がる」
「…同時多発位置差攻撃…オール…」
「そう。だってあんなこと誰もやろうなんて考えないよ!…孝支君にとって新たな一歩になると思う」
「俺にとって新たな一歩…」
「うんそう、奇襲攻撃みたいな感じかな。だからこそ、タイミングが大事だと思う」
私の話を真剣な顔で聞いてくれてる孝支君。
勉強を教えている時よりも真剣な顔してるじゃない…私もか。
「仮に、同時多発位置差攻撃オールを初戦に出したとする…するとどうなる?」
私の問いかけに、少しの間考えている素ぶりを見せた孝支君が再び此方を向いた時彼の口元には普段の笑顔とはかけ離れたような、悪い笑みが浮かんでいた。
「…手の内を早めにバラすなってことだべ?」
彼の言葉に私もニヤリと悪い笑みを浮かべた。