第8章 奮励努力ーsugawaraー
ー菅原sideー
「じゃあお先!お疲れー」
京香さんが待っていてくれてるからって思って急いで着替えて部室を飛び出した。
今までは俺が京香さんを追い掛けて、半ば押し掛ける形で一緒に帰っていたのだが今日は違う。待ち合わせをして一緒に帰れる。それが俺にとってどれだけ重要なことか…思わずニヤけそうになるのを必死に堪えて彼女の元へ走る。
「京香さん!ごめん、お待たせ」
「ううん大丈夫。孝支君こそ急がせたみたいでごめんね」
何かこの会話が付き合ってるみたいで恥ずかしくなる。
帰ろうか、と微笑んだ彼女に頷けば肩を並べて歩く。
京香さんが烏野に来てくれる時はいつも一緒に帰ってるのに何だかやけに緊張して言葉が出てこない。
ほんとダメだなー俺。
折角のチャンスなのに変に意識しすぎて心臓が口から飛び出しそう。試合でもここまで緊張したことないってくらい緊張してる。
「で、孝支君相談したいことって?」
暫く歩いてから京香さんが口を開いた。どうやら中々言い出さない俺に気を使ってくれたらしい…あぁ、かっこ悪りぃ。
…でもちゃんと言わねえと。俺だって誰にも負けるわけにはいかないから。
「うん、あのさ。進路のことで…」
「進路?大学?そうだよねもう考えてる時期だよね」
「あの俺!京香さんが行ってる大学に行きたくて…!」
「え、私の?…孝支君なら大丈夫だよ!わー嬉しいな、是非バレー部きてね!一緒にバレーしよ!」
きょとんとした京香さんはすぐに笑顔になってくれて、まずは一安心。嫌だなんて言われたら俺立ち直れないべ。
「セッターが増える」と足取りが軽くなった彼女が可愛らしくて俺も顔が綻ぶ。彼女の言動に深い意味などないとはわかっているけど、もしかしたらって期待してる俺がいる。
…いや期待したら良いんだって。
バレーでも彼女でも俺は諦めないって決めたんだから。
「そこで京香さんにお願いがあってさ」
「ん?何?私で力になれる?」
「うん、俺に…勉強教えてくれませんか!」
「えっ勉強?」
歩みを止めて頭を下げた俺に京香さんは驚いたような声をあげた。
「孝支君、顔上げて…?」
すぐ近くで京香さんの声がして頭を上げると、彼女は俺の好きな笑顔を浮かべていた。