第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ーー『以上を持ちまして…』
またアナウンスが流れればゆっくりと室内が明るくなる。
私にピタリとくっ付いていた徹君の身体も、名残惜しそうに離れていく。彼は本当に私にくっ付いていただけでそれ以上何かをしてくることはなかった。
「ふぁ…リラックスしすぎて眠っちゃいそうだった」
んー、と大きく伸びをしている徹君。
全く、こっちはリラックスどころじゃなかったんだからね!
グッと怒りたくなる感情を何とか飲み込む。普段何かと周りを気にしている徹君だから、疲れも溜まっていたのだろう。彼女の件を了承したのは私だし、変に意識してしまっている時点で徹君の掌の上だ。
「あ、もうこんな時間だ…徹君そろそろ帰ろうか」
「え?もう?」
「もうって、結構遅い時間だよ。それこそ未成年の高校生を連れ回してたら私捕まっちゃう」
冗談交じりにクスクス笑いながら、周りのカップルたちも出て行っているので立ち上がる。少し俯いている徹君を見れば拗ねているようだ。バレーをしている時の威圧というか、絶対的な自信はどこへやら。
これ以上笑ったらもっと拗ねそうだなと思えば、私から手を繋いでみる。徹君の肩がビクッとすれば、目が段々と輝いてきていて。
「また予定が合えば遊ぼう。徹君が彼女出来るまで、だとは思うけど…」
「今の言葉忘れないでよ!俺の彼女は京香ちゃん以外あり得ないから、ずっとデート出来るね」
嬉しそうに笑ってる徹君。機嫌がなおったみたいで良かった。
手を繋いだままプラネタリウムを後にして、駅へと向かう。
その道中、徹君からは青城のみんなの話が止まらなくて、岩ちゃんがね、とかマッキーがね、とか。楽しそうに話してくれてる彼を見るだけで私も笑顔になってくる。
合宿が終わってからも、相変わらずみんな私からのアドバイスを実践してくれているようで。以前より互いの癖を言い合ったり、話し合ったりする機会が増えたそうだ。
それを聞いて、ちゃんと力になれたんだなと嬉しくなった。
暫く歩けば駅に着いて。この1日限定の関係も終わりを迎える。
「徹君、今日はありがとう。楽しかったよ」
「俺も、楽しかった」
「…あ、あのね」
「…あのさ」
2人の声が重なる。どうやらお互いにタイミングを見計らっていたようで。顔を見合わせて少し笑って「京香ちゃんからどうぞ」と言われて頷いた。