第7章 一寸光陰 ーoikawaー
隣に座ると徹君との距離が近くてやはり緊張する。
「京香ちゃん緊張してる?」
「う…だって周り本当にカップルばっかだから…」
「あれ、俺に緊張してくれたわけじゃないの?じゃあもっとドキドキさせてあげよっか」
「え…?」
室内が暗いからか、自然と話す声が小さくなる。距離が近いから小さな声でもちゃんと届いているから問題はないけれど。
徹君が悪戯にニヤリと笑ったのが見えて、何をされるのかと構えればそっと私の手をとって指を絡める。そして私の表情を伺いながらゆっくりと見せつけるようにその手を上げれば、まるで王子様がお姫様へ忠誠を誓うように私の手の甲へ口付けを……
少し伏せ目がちになった徹君の睫毛が長くて、またそれが色っぽくて思わず見惚れてしまうほど。
何というか、ここまで様になるのは彼だけだろう。
バチッと此方を向いた徹君と視線が絡めば、私の反応に彼は満足気に口元を緩めた。
「も、もう徹君っ」
「俺から京香ちゃんへの忠誠…尊敬。誰にでもやってるわけじゃないよ?こんなことしたの初めてだから」
ーー『本日はご来場頂き…』
上演時間になったのか、アナウンスが流れ室内が真っ暗になる。アナウンスの通りにソファを倒せば天井には眩いほどの星空。
それに感動していると、スルッと私の頭の下に手が伸びてきたので吃驚して徹君を見れば、シーッと唇に指を当てて微笑んでいる。所謂腕枕のような状態。反対の手も伸びてくればしっかりと私の手と繋がれて。グッと徹君に引き寄せられればピタリと彼に寄り添うような態勢に。流石に恥ずかしくて離れようとするも、彼の力に勝てるわけもなくて。
「京香ちゃん今だけ…俺に夢を見させて…君を感じさせて…これ以上、何もしないから…」
耳元で徹君に囁かれた。その声はいつものような明るいものではなく、切ないような苦しいようなそんな声。
ズルい。そんなこと言われたら拒めなくなる。
そのままこてん、と彼の頭が私の方へ預けられる。
当然、徹君の方を見れなくて…でも近くに感じる彼の呼吸にドキドキしてしまって、上演が始まってからも私はプラネタリウムどころではなかった……