第7章 一寸光陰 ーoikawaー
手を繋ぐって、普通に繋ぐわけじゃなくて恋人繋ぎだったのかと。さり気なく伸びてきた徹君の手に包まれれば、ビクッとしてしまった。
しかし、彼は気付いていないのかそのまま店内を歩きレジへと向かう。誰も私たちのことなんて見ていないのに、凄く見られている気がしてしまい少しだけ顔を俯かせる。
彼は女の子の扱いに慣れているのだし、きっとファンの子とデートなんてしょっちゅうしていること。浮かれない、緊張しない!
なんて言い聞かせて顔を上げればレジの前。当然のように徹君は支払おうとしていて。
「あっ、徹君少しでもいいから出させて?」
「何言ってるの。ここは彼氏の俺に任せて…ね」
少しだけ"彼氏"と強調したような気がするのは私が意識し過ぎているからなのかどうなのか。パチン☆と慣れたようにウインクした徹君は、財布を出そうとした私の手を制して精算してしまった。
流石に店員さんの前でうだうだ言うのは彼に失礼だからと思って大人しく鞄に財布をしまった。
しかし、このままいくと本当に全て徹君が支払うなんてことになってしまいそうだ。年下に、しかも高校生にそんなデート代を全て払わせるなんて私には出来ない。
どこに連れて行かれるかわからないけれど、年上の意地だ。次は私が、と思えば手を引かれるままにカフェを出て歩く。
外を歩けば、やはり女の子たちが黄色い声を上げて徹君を見ている。この顔でこの身長でこのスタイルでこの服のセンスだ。振り返らない方がおかしい。隣に居て、しかも手を繋いでるのが私でごめんなさいと居た堪れない気分になってくるが。
暫く歩けば徹君の足が止まって。不思議に思って彼を見上げてみればニコリと微笑んでいて。
「京香ちゃんここ行こ」
「ここ?あ…水族館!うん」
指が差された方を見れば、ショッピングモールの中のフロアが全て水族館になっている場所で。
私が笑顔で頷けば、良かったと微笑んで中に入る。
日曜日だからかそれなりに混んでいて、ボーッとしていたら逸れてしまいそうだ。
「京香ちゃん逸れないようにね」
「う、うん。でも徹君ならすぐに女の子の人だかり出来るだろうから見つけやすいね」
「む、京香ちゃん以外の女の子はいらない」
なんて少し意地悪を言えば、少し拗ねてしまったようで、離れないようにと繋がっている手の力が強くなった気がした。