第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ー及川sideー
本当に彼女はバレーも、バレーをしている人たちも好きなんだなと改めて感じた。だから何処かの高校だけを贔屓しない。努力している人間の元へと手を差し伸べる。まさに女神だ。
「まあ、全員ってわけにはいかないだろうけど…飛雄とかチビちゃんあたりは全日本とかの可能性はあるかもね。うちはマッキーもまっつんも専門学校組だし、岩ちゃんは続けるだろうけど…」
京香ちゃんに心配はかけないようにと、声を明るくする。でもやっぱりバラバラになるのは正直辛い。ずっと一緒だった岩ちゃんともきっとこれが最後…
「大丈夫だよ徹君。学校が違っても、例えバレーから離れても、青城のみんなの絆は変わらない。それはレギュラー陣だけじゃなくて、ベンチのみんなも、応援席のみんなも。それに、全国行くんでしょ」
京香ちゃんがにっこりと笑う。
そうだ、彼女にはお見通しなのだ。俺のこの弱い部分も。優しく包み込んでくれて、一歩前へと進む勇気をくれる。
「そうだね、京香ちゃんの言う通りだ」
「でしょ?ほら食べないならマンゴー貰っちゃうよ」
「あ!俺のマンゴー…!」
ひょいっと京香ちゃんの手が伸びてきて、俺の皿のマンゴーを掻っ攫うと子供が悪戯したときのような無邪気な笑みを浮かべて、パクリ食べてしまった。
そんな彼女も可愛くて、こんな時間が幸せで。
「じゃあ京香ちゃんの苺もーらい」
「え、あーっ!私の…!」
仕返し、と彼女の皿から苺を攫えば躊躇いなく口の中へ。
むう、と子供が拗ねたような表情をする京香ちゃん。きっと俺だけしか知らない彼女の表情。
クスクスと俺が笑えば、次第に京香ちゃんも笑い出す。端から見れば仲の良いカップルにでも見えるかな、なんて。
「食べたら次のとこ行こっか」
「うん、どこ連れてってくれるの?」
「それは内緒。お楽しみにね」
2人とも残りのパンケーキを食べてしまえば、少し話した後席を立つ。京香ちゃんに取られる前にしっかり伝票は確保して。
立ち上がった彼女の手をそっと握って様子を伺えば、抵抗する素振りもなくて。それならば、と指を絡めてみる。所謂、恋人繋ぎ。
ピクッと少し反応したように感じたが、振り解かないなら気付かないフリするからね。
ーーもう絶対にこの手は離してやらない。