第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ー及川sideー
「これも美味しい…!徹君よくこんなカフェ知ってたね」
「喜んでもらえてよかった。この前たまたま雑誌で見かけたんだよね」
…なんて大嘘。京香ちゃんに喜んでもらいたくて、俺のファンクラブの女の子たちに必死にカフェを聞きまくったんだよね。
部活のない月曜日にマッキーや嫌がる岩ちゃん無理矢理誘って下見にもきたし。そんなこと絶対に内緒だけど。
「そういえば、あれからサーブはどう?肩に負担かけてない?」
「うん、まだイマイチなんだけどね。京香ちゃんとフォームを少し変えたおかげで威力は前のサーブより上がってる」
「そっか、やっぱり問題はコントロールだよね…」
「何本か打てば微調整出来るし、大丈夫。ウシワカちゃんをぎゃふんと言わせるよ」
「ふふ、若利がぎゃふんっていう姿見てみたいかも」
綺麗に笑う京香ちゃん。幼馴染だっていうウシワカが憎たらしい。尽く俺の前に立ち塞がりやがって。
…ウシワカのこと考え出すと苛々してくる。うん、話題を変えよう。
「京香ちゃんはさ、将来の夢ってあるの?」
「うんあるよ。実現するかはわからないけど」
「なになに?教えて?」
「全日本男子バレーのトレーナー」
「へえ、京香ちゃんらしいね」
そう言ってからふと気付いた。京香ちゃんが全日本男子バレーのトレーナーになるというのなら、俺が全日本男子の選手となれば一緒に練習することが出来る。戦うことが出来る。
何より、一緒に勝利を掴むことが出来る。
彼女が全日本にいくというのなら、俺もいこう。
動機が不純?そんなの関係ないね。
全日本に選ばれる為には高校で実績を残して、大学でもそれなりに活躍する必要がある。
「京香ちゃん、俺も頑張って全日本に選ばれてみせる。そしたらさ、一緒に世界と戦おう」
「徹君…うん!徹君なら絶対に全日本男子に選ばれるよ!実はね、合宿中思ってたことがあってね…」
俺の言葉に嬉しそうに微笑んでくれた京香ちゃん。これはもうウシワカに拘っている場合じゃない。春高いって、全国優勝する。そう俺は決意を新たにした。
「烏野も青城も関係なく、みんなで同じチームでバレーが出来たら良いのにって…」
ありえないことなんだけど、と苦笑した彼女にまた胸がチクリとした。