第1章 合縁奇縁
「山口君ナイスー!」
「すげぇえ山口ー!」
ジャンプフローターサーブを成功した本人が一番驚いてるらしく、エンドラインで固まっている。
そこへ菅原君や木下君が駆け寄れば、ぐしゃぐしゃっと頭を撫でながら褒めている。
照れながらも嬉しそうにしている山口君と目が合い、「やったね!」と微笑んでガッツポーズとした。
すると彼も嬉しそうに頷いてくれた。
ふと、視線を感じて周りを見てみれば烏養コーチと目が合った。
しかしすぐにそれは逸らされ、何事もなかったかのように試合開始の笛を鳴らした。
なんだろう、根拠はないのだがなんだか背中がゾクッとするような嫌な予感がする。
私のことバレてる…?
いや今は試合に集中。と掻き消すように首を振った。
だが、このままの烏野では全国どころか、決勝戦へ辿りつくことも危ういかもしれない。
そう思うと自然と険しい表情になってしまう。
「真澄さん、大丈夫ですよ。今はまだ歯車が噛み合ったばかりで、みんな雛鳥です。しかし、烏の巣立ちは30日・・・春高までには立派な烏に育ってますから」
「あ・・・ええ、そうですね。なんだかそうなる気がします」
私の表情を見た武田先生が微笑みながらそう言った。
まるで何て思ったのかわかってしまったようだ・・・
先生の言葉は魔法のようにスッと身体の中に入ってきた。
思わず笑みが零れて、顔を見合わせればクスクスと笑ってしまった。
「なあなあ影山、なんか凄いいい雰囲気じゃねえ?」
「あ゛?知るかよ!集中しろボゲエ!」
「あだっ!殴らなくてもいいだろ影山!」
なんて日向君たちのやりとりも、
「ツッキー、真澄さんって凄いよね」
「本当にただのマネージャー?」
「さあ・・・?」
月島君から向けられた小さな疑いも、
「なあスガ、さっき真澄さんと何話してたんだ?」
「ん?あー…へへ、内緒ー!な、縁下」
「え、あ、はい」
「「力お前もかああ」」
優越感の表情の菅原君と縁下君とは対照的な表情の澤村君や、田中君と西谷君の嫉妬が交じった声も、
「やっぱり、そうかもしれねえな…」
確信をもって呟かれた烏養コーチの声も。
この子たちが個々にも成長すれば良いチームになるだろうなと想像していた私は気付かないのであった。