第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ー及川sideー
「そ、そんなに見ないで。…早く徹君も食べれば?」
「え?あ…そうだねごめん。あまりに京香ちゃんが幸せそうな顔してるからつい」
急に京香ちゃんの食べる動きが止まり、恥ずかしそうに顔を赤くさせながらボソボソと紡がれた言葉にハッと我にかえる。どうやらあまりの可愛さにずっと見つめていたらしい。
あはは、と笑って誤魔化せば俺もパンケーキにナイフを入れてパクリと食べる。
ふわふわな生地にマンゴーのソースと生クリーム、ゴロゴロとしたマンゴーが合わさりとても美味しい。
「凄い美味しい…!ね、京香ちゃんの一口頂戴?」
「ん?うんいいよ、じゃあ徹君のと交換ね」
「違う違う。あーん、してよ。俺もしてあげるから」
「え?は、恥ずかしいから…!」
皿をそのまま差し出そうとしている京香ちゃんを制して俺が口を開ければ、ブンブンと首を振ってまた顔を赤くさせた彼女。
なんだこの可愛さは。合宿では決して見せなかった表情。俺にだけ見せてくれてるその表情。そう思っただけて嬉しすぎて卒倒してしまいそうになる。
「大丈夫誰も見てないから…ね?」
本当は見せ付けたいのだけれど。京香ちゃんは俺のものだって、こんなにこんなに可愛いんだぞって大声で叫びたい。でも、まだ君は俺のものじゃない…必ずいつか大声で言ってやる。
キョロキョロと周りを見回した京香ちゃんは、視線が向けられてないことに納得してくれたのか、小さめにパンケーキを切って苺を乗せたそれをフォークで刺した。
そして深く息を吐いた後、相変わらず恥ずかしそうにしながら、俺の方に差し出してくれて。
俺が口を開ければ、甘いパンケーキが入ってきた。
苺だからか、甘いだけじゃなくて少し酸味を感じる。甘酸っぱい味が口の中に広がった。
それは今まで食べてきたどんなものよりも美味しく感じて…きっとそれは彼女があーんしてくれたからなんだろうなと自然と口元が緩む。
「ん、これも美味しい。はいじゃあ今度は俺ね?」
「じ、自分で食べれるから…!」
「だーめ。はい京香ちゃんあーんして」
彼女は押しに弱い。ほら、俺が笑顔でフォークを差し出せば戸惑ったような表情しながらも口を開けた。
優しく口の中に入れてあげれば、モグモグとしたあと目が輝いたのがわかった。