第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ー及川sideー
一か八かの勝負に出てみたんだけど…この反応はどう捉えたら良いのだろうか。目の前の京香ちゃんは固まっている。あ、戸惑っているのかな。
そりゃそうか、いきなり今日だけ彼女になってって言われたんだからね。
でもね、こんなチャンス俺が見す見す手放すわけないでしょ?
「彼女って言ってもね、キスしたりとかじゃなくってさ。手を繋いで歩いたりとかしたいだけなんだよね。それなら良いよね?」
まずは彼女の中の警戒心を解く。本当はキスだって何だってしたい。でもそれじゃあ彼女の心は手に入らない。俺の独りよがりだ。
でも、引き下がるわけにはいかないから…
ごめんね京香ちゃん。君の優しさに俺はつけ込むよ。
卑怯だって思われても構わない。俺という存在を君の中に残したい。澤村クンでもない菅原クンでもない岩ちゃんでもない飛雄でもない、…俺を。
少しの間、伏せられていた彼女の瞳が俺を映す。嫌われたらどうしよう、嫌だって言われたら立ち直れないかもしれない。
やはりいきなり言ったのはマズかったかな。俺らしくない、余裕がない。今更になって後悔の念が押し寄せてくる。
「…いよ」
「え?」
「…っ…今日だけ!良いよって言ったの」
色々考えていたからか、俺が聞き直せば顔を赤くさせてから今日だけと強調しながらも頷いてくれた京香ちゃん。
あぁ、やっぱり君は優しいね。
色々と考えてくれたんだろう。でもきっと俺じゃなくても、同じように頼まれたら断れないんだろうと思うと胸がチクリとする。
「ありがとう京香ちゃん」
にっこりと俺が笑えばまた小さく頷いてくれる。目線が合わないのは意識してくれてるってことなのかな?あわよくば、そのまま俺のこと好きになってくれたりしないかな。それは欲張りか…
「お待たせしましたー」
店員さんが注文したパンケーキを持ってきてくれて、漸く俺は彼女の手を離した。もっと繋いでいたかったけど…今日はこれからずっと繋いでいられるからね、ちょっとの我慢。
「美味しそうだね。食べよっか」
京香ちゃんが頼んだのは苺がのったパンケーキ。俺が頼んだのはマンゴーがのったパンケーキ。
ジッと京香ちゃんが一口食べるのを見つめる。
あ、幸せって顔してる。可愛い。
気に入ってもらえたようで俺はホッとした。