第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ニコニコしている徹君。
ちょっと待って、と頭の中で何度かその言葉を繰り返してからやっと飲み込んで理解した。なんて言うことを口走ったのだ私は。
しかも徹君は…その、私に好意を抱いてくれていて…それなのに私は期待させるようなことを…!なんて弁解すればいい?下手に喋れば彼を傷付けてしまう。
ううう…といつの間にか私は頭を抱えて小さく唸っていたらしい。徹君の吹き出したような笑い声にハッと我にかえる。
「ごめん、ちょっと意地悪しちゃった。大丈夫、あれは俺を助けるためについ言っちゃったことなんだよね。ありがとう京香ちゃん」
「徹君…その、ごめんね」
「む、謝らないでよ。いずれその言葉本物にしてやるんだからね。
…あの女の子にも言ったけどさ、俺は京香ちゃんしか興味ないから」
急に徹君の表情が真剣になる。いつものふにゃっとしたものじゃなくて、バレーをしている時のような表情。そんな表情で見つめられたらドキドキしてしまって、私は小さく頷くことしか出来なかった。
私が頷いたのに満足したのか、「何食べるー?」とまたいつもの調子に戻った徹君。おそらくこのギャップに女の子たちは惚れるのだろう。全く高校生のくせに恐ろしい子だ、なんて感じた。
結局私たちは、お店のオススメのパンケーキを注文した。
「徹君、甘いもの大丈夫なの?」
「大好きってわけじゃないけどね。いつもマッキーにケーキ屋とかカフェとか連れてかれてるし」
「あ、そっか。貴大君甘党なんだ」
「そうなんだよね。女の子たちがたくさん居るから1人じゃ無理って言ってね、いつも俺とまっつんと岩ちゃん連れてくんだよ。
身長180越えの男3人と岩ちゃんでケーキ屋とか注目の的だよね。そうそう、岩ちゃんは身長180ないんだよ」
なんて笑う徹君はやはり楽しそうで。彼が白鳥沢ではなくて青城に進学して良かったのだと改めて感じた。
「京香ちゃんあのさ、今日1日お願いがあるんだけど」
「ん?お願い?私で出来ることなら」
一頻り笑った徹君は、深く息を吐いて意を決したように私を見つめてくる。今日遅刻して迷惑かけたしと思って頷けば、徹君は嬉しそうに笑ってから。
「今日だけ、今日だけでいいから…俺の彼女になってくれない?」
スッと伸びてきた徹君の手が、私の手を優しく包み込んだ。