第7章 一寸光陰 ーoikawaー
やっぱり私怖い顔してたんだ…
ごめん徹君のイメージを悪くさせた…なんて落ち込む。
「徹君、ごめんねお待たせ。行こっか」
声を掛けてもまだボーッとしているような徹君。このままじゃまだ居る女の子たちが不審がるだろうしなと思えば、徹君の手を掴む。
「え、あ、京香ちゃん!うん、行こう」
私が手を掴んだことでハッと気付いたような徹君は、コクコクと何度も頷いてから女の子たちを掻き分けるようにして歩き出した。
何やら徹君の手が熱い。今日はそこまで気温は高くないし、残暑はもう終わっているはず。もしかしたら熱でもあるのかと少し先を歩く彼を見上げれば、耳が赤い。
もうあそこにいた女の子たちが追ってくることもないだろうと思って、心配になった私はクイクイと徹君の手を引いた。
「どうしたの?」
「徹君、熱とかある?手が熱いし…耳も赤い…無理してない?」
立ち止まって此方を向いてくれた徹君は、やはり少し顔も赤いように感じて。そっと手を伸ばせば彼の額に手を当てて確認してみる。
「あ、はは…大丈夫。ご飯食べに行こうか」
額は熱くはなくて、大丈夫だと笑う彼を信じれば頷いた。
再び歩き出した徹君は、先程とは違って私の歩くペースに合わせてくれて。香水でもつけているのだろうか、ほのかに香る爽やかな匂いに徹君らしいなと思わず微笑んだ。
暫く歩いて、立ち止まったのはお洒落なカフェ。
「京香ちゃんここにしよ」
「うん、良いよ。流石徹君だね、凄いオシャレ」
店内に入る時も、扉を押さえててくれて。慣れているその仕草に、慣れていない私はドキッとしてしまう。
席に案内されて、向かい合わせに座ればバチッと目が合って恥ずかしくなり、目線をメニューへと落とす。
「何食べる?あ、今日は全部俺の奢りね」
「えっ、そんなのダメだよ!私遅刻しちゃったし…」
「そうじゃないとお礼じゃなくなるよ。それに、遅刻してきてくれて嬉しかったことあったし」
嬉しかったこと?と私が再び徹君へと視線を向けて首を傾げると、やっぱり無意識か…と眉を下げて笑った徹君。
「女の子たちに囲まれてた時、京香ちゃん助けてくれたでしょ」
「うん」
「その時にね、私の彼氏に何か用?って…言ってくれたんだよ」