第7章 一寸光陰 ーoikawaー
「今は違うよ」
私の言葉に不思議そうに顔を上げた広樹に微笑めば、腰に手を当てて偉そうな態度をとってみた。
「だって私がコーチ補佐してるもん」
「…は?え、京香さんが…コーチ補佐っすか」
「うん。まあ…私が居なくても今の烏野は十分強いよ。だって大地君のプレーは広樹に似てるもの」
「…澤村が俺の…?でも、あいつは優しいから」
「ふふ、それがさ、大地君結構怒るのよ。私も無理するなって怒られたし」
「あいつが…?」
「そうだよ、きっと広樹みたいな主将になりたいって思ったんじゃない?君、卒業してから顔だしてないでしょ」
「出してないっすね」
「よし、今度一緒に行こう!きっと孝支君や旭君も喜ぶよ」
小さく頷いたのを見れば、大地君たちには内緒にして驚かせてやろうと企てる。
話はだいぶそれてしまったが、午後のメニューを考え始めてるキャプテンの前に座り込んでジッと見つめる。
何も言わず、ただジーッと。
私は知っている、キャプテンは押しに弱いことを。
「あぁもうわかったよ!高校生たちの代表決定戦終わったらちゃんと働いてもらうからな」
「キャプテンありがとうございます!お疲れ様でした!」
よし、作戦成功。観念したようなキャプテンは大きな溜め息をついてから許可をくれた。
まだ近くにいた広樹に、今度自主練しようということと烏野行く時声掛けるねと言ってから鞄を持って体育館を飛び出す。
時間がないのに広樹と話し込んでしまった。でも、烏野前主将が来てくれたらまたあの子たちのモチベーションも上がるだろう。
徹君に少し遅れるかもって連絡しないと、と思ってバスに飛び乗ればスマホを操作する。ちゃんとマナーモードに切り替えて。
しかし、今日はどこへ連れて行かれるのだろうか。たくさん歩くのならヒールじゃ迷惑かけるだろうし、かといって徹君の隣を歩くのだ、変な格好だと彼の周りからのイメージを壊してしまう。せめて姉だと言えるような格好をしなければ…
ヴヴ…とスマホが震えたので確認すれば、徹君からの返事だったようで。
『待ち合わせ場所で待ってるからゆっくりでいいよ。気を付けてね』
彼の優しさに思わず微笑む。まるで恋人のようなやりとりに恥ずかしくなりながらも、バスから降りれば家を目指して早足で歩いた。