第7章 一寸光陰 ーoikawaー
ピロリーン。
大学のバレー部使用の体育館に何とも軽いような着信音が鳴った。
その音に休憩中だった部員は各自、自分のスマホを取り出した。勿論私も例外ではなく、まとめて置いておいた鞄からスマホを取り出し確認する。
どうやらこの着信音は私のようで。
「ごめんなさーい!マナーにしとくの忘れてました!」
俺じゃねえや、誰だ?なんてキョロキョロしている部員に大きめの声を出せば私だと素直に謝罪した。
差出人は及川徹。徹君が何だ?なんて内容を見れば思わず動きが止まる。そう、すっかりと忘れていたのだが、無理矢理デートの約束を取り付けられた日曜日が今日であったのだ。
どうやら青城の練習は終わったらしい。お昼も一緒に食べないかという誘いもきていた。
ふと時間を確認すれば、徹君が指定している時間の1時間前。
「やっば…!」
「ん?京香どうしたんだよ」
「なになに、彼氏かー?」
「か、彼氏じゃないです!」
今から帰って、着替えて、待ち合わせ場所に…
なんて頭をフル回転させて考えていれば、周りにいた同級生や先輩が冷やかしてきて。彼氏という言葉にドキドキしながらも全力で否定すれば、その動揺が見抜かれたのか尚も冷やかしてくるのを振り払いながらキャプテンの元へ。
「キャプテンすみません…」
「また高校生か」
「うぅ、約束あったの忘れてて…」
「俺との自主練は相変わらずほったらかしっすか」
「うおっ?!あ…広樹…ごめん!」
呆れ顔のキャプテンに顔の前で手を合わせて抜けさせてくれと頼んでいると、急に後ろから声をかけられてビクッとした。
いつも無表情な彼だが、少し怒ってるような拗ねてるような…
黒川広樹。私の一つ下の後輩だ。攻守ともに天才とまではいかないが優れていると思う。大学に入ってきて半年過ぎ、以前より体格もがっしりしてきたし、スパイクの威力も上がってきていると思う。
例えてみれば、大地君や一君のようなタイプ。
ここまで考えて、あることに気付いた。
広樹が大地君のようなタイプではなくて、大地君が広樹のタイプなんだということに。
そうか、確か広樹の出身校って……
「そういえば広樹って烏野出身だったよね」
「そうっすけど…"堕ちた強豪"っすよ」
烏野という名前に一瞬目を見開いた広樹は、苦虫を潰したような表情になり俯いてしまった。