第6章 緊褌一番ー5日目ー
「ところで、何故お前が烏野にいた?名を呼ばれていたが…」
「ん?あー…えっと…実はね、コーチ補佐なの。烏野の」
「コーチ補佐?いつからだ」
「最近!1ヶ月ほど前くらいから…かな」
「そうか」
あれ、私の予想が外れたのか、若利は怒っていないようだ。
チラッと見上げてみると相変わらず無愛想な表情のままである。少しホッとすれば、そのまま最寄り駅まで2人で歩く。
若利は孝支君のように車道側を歩いたりとかまではしてくれないものの、歩くペースは私に合わせてくれていて。その小さな心遣いが嬉しかった。
「コーチということは、見ているのか。烏野のことを」
「うん、頼まれたからにはちゃんと見てるよ」
「それでは烏野も少しはマシになったのか」
「マシって言い方やめなよ。ちゃんと強いよ、嘗めてかかると喉元喰い千切られるかもね」
珍しく若利が食いついてくる。それ程烏野のことが気になるのだろうか。いや、烏野じゃなくて翔陽君のことが、なのだろうけど…
若利の言葉に悪意がないことを知っているが、マシという言葉に思わず苦笑する。素直にすまないと謝るところは良いところだと思うのだが。私の言葉に考えるような素振りの若利に、私は出てくる言葉を待った。
「しかし、現在強いのは俺のいるチームだ。それは揺らがない。例え京香の力が加わったところで俺たちが負けることはあり得ない」
「それはそれは大した自信ね」
「自信…?俺は事実を述べたまでだ」
そうだろう?と同意を求めるような視線を向けられて、すんなりと頷くことは出来なかったものの、確かに若利が入ってきてからの3年間県内で負けはない。私が小さく頷けば、当然だという表情。
しかし、彼は今成長している烏野の実力を知らないからそう言える。いざ対峙した時、いつものように力で捩伏せることが出来るのか、は不明である。
翔陽君との出会いは今以上に若利を成長させる。
あぁ、早く白鳥沢と烏野が戦うところを見てみたい。自然とそう思ったが、白鳥沢の前には青城が立ち塞がる。彼らの意気込みや熱意、闘志も知っているからこそ、何方かが負けると考えると胸が締め付けられる思いだ。
また無意識に私は溜息を零したのであった。