第6章 緊褌一番ー5日目ー
「お、おいお前たち…」
「ヒナタ、ショウヨウ…カゲヤマ、トビオ…」
慌てた大地君が2人を連れ戻そうと声をかけるも、向かい合った若利はどうやら2人のことを覚えているようで。あの若利からたった一度会っただけの人物の名が出てくるとは思わず私は固まった。
いつも練習試合をしている私の大学の部員でさえ、名前を覚えていないのに…
名を覚えているということは、やはり私が感じたように、若利もこの2人に何かを感じたのかもしれない。だって白鳥沢メンバー、徹君以外彼の口から高校生の名は聞いたことがなかったから。
「ウシワ…じゃなかった、牛島さん!俺たち、大王様に勝って、必ず貴方がいる場所に立ってみせます!」
「翔陽君…」
「口では何とでも言える。俺が居る場所まで辿り着いてみろ…楽しみにしている。京香、行くぞ」
「…あ、はいはい。じゃ、お騒がせしました」
「京香さん!」
翔陽君から若利に二度目の戦線布告。勝手にしろと興味を示さないかと思っていたのだが、楽しみしているという言葉にまた吃驚した。
覚がこの言葉を聞いたら何て言うだろう、若利君がおかしくなったとでも騒ぎ出しそうな。それに巻き込まれている工…獅音や英太は呆れてそうだが。そんな情景が浮かんできて、思わず口元が緩む。
名前を呼ばれればハッとして、よく言ったと微笑んで翔陽君の背中を叩いて、睨み付けているような、威嚇しているような飛雄君の背中も同じように叩く。
再度ぺこりとみんなにお辞儀をすれば、2人の影から出て若利の方へ。すると、名前を呼ばれたので振り返れば今度は飛雄君のようで。
「必ず、日向との新速攻完成させます!必ず…勝ちます」
「うん!期待してる!でも、楽しむこと忘れちゃダメだよ」
グッと拳を握り締めた飛雄君からの強い言葉。大きく頷いて微笑めば、またねと手を振って体育館を出た。
「お待たせ若利。それにしてもここまで早かったけどどうやってきたの?」
「ロードワークついでにだ。大した距離ではない」
「ロードワークって…あんた何処から…」
「勿論家からだが?」
「はあ?何考えてんの!やりすぎ!帰りは走って帰らせないからね」
白鳥沢のジャージに身を包んでいる姿を見る限り、走ってきたのだと予想はしていたが…何で私が怒っているのかわからないという表情の若利に溜息が零れた。
