第6章 緊褌一番ー5日目ー
「何度も溜息吐いてどうかしたのか?体調でも悪いのか?」
「ううんそうじゃないの。高校生たちみんな必死にバレーに青春捧げてるのに、春高に行けるのはたった1校だけなんて…って思ったら…」
「何を今更当たり前のことを言ってるんだ。勝負の世界はそういうものだろう?強者だけが生き残る。うち以外は全国には行けない…それは京香が"勝利の女神様"と呼ばれ始めた頃から変わらない。ほら、荷物持ってやる」
「あ、ありがとう若利」
にゅっと最近見た高校生たちの誰よりも大きな手が伸びてきて、私の大きめの鞄は若利の肩へ。
珍しいこともあるものだと吃驚しながらも、最寄り駅に着けばそれなりに人が居て。連休最終日だから当然なのだが、若利の身長が他の人より頭ひとつ大きくて良かったと思う。
「ところで若利、私に何の用事なの?」
「あぁ言ってなかったか?」
「言ってないよ!そこにいろって電話切ったの若利じゃん!」
「そうか、それはすまなかった。母が京香も一緒に食事をと言っていたからな。迎えにきた」
「え、若利の家に?私ジャージだけど…」
「急な誘いだ、大丈夫だろう」
若利のお母さんから食事の誘いと聞いて驚いた。小さい頃から出入りはしていたものの、お世話になっていたのは元バレー選手のお父さんの方。どちらかと言えば、お母さんはあまりバレーに関心がないというか…
若利の家は大きいし、由緒ある家系なので何度行っても緊張する。
しかし断るわけにもいかなくて、若利の家の最寄り駅までの切符を2人分買って電車に乗る。
ただでさえ合宿で疲れているのに、また疲れそうだとバレないように溜め息を吐いた。
何事もなく無事に今日が終われますように、と祈りながら電車に揺られ若利の家へと足を踏み入れた。
お母さんは笑顔で迎えてくれて、久しく私が顔を見せてなかった為、寂しかったから呼んだのだという。
「京香ちゃんが若利のお嫁さんになってくれれば良いのに」
なんて言葉をうまくかわしつつ、連休最終日が終わったのであった。
私にとって、何年かぶりの合宿は何とも濃いものだったが、選手を支えたいという気持ちは大きくなり、全日本のトレーナーになるという夢へ向かうべく、より一層勉強に励むきっかけとなった。
本番で、みんなが自分の力をしっかりと発揮出来ますようにと私は祈った…