第6章 緊褌一番ー5日目ー
「牛島…って、白鳥沢の?」
「ウシ、っウシ…ウシワ…!」
あちゃー、と思わず額に手を当てる。武田先生の声はバッチリと部員たちの耳に届いていたらしい。各々戸惑うような反応を見せたりしている。そりゃそうだ、何で白鳥沢の若利がって思うよね。
チラッと武田先生を見れば、土下座をしそうな勢いで謝っていて。もう起こったことだし仕方ないと、大丈夫ですと伝えた。
翔陽君は、身体をビクッとさせて緊張した面持ちだし、飛雄君は殺気に似たオーラを醸し出している。
あぁやっぱり何も言わずに帰った方が良かったかもしれない…
「ノヤっさん!俺らの京香さんをお守りするぞ!」
「そうだな龍!白鳥沢には渡さねえ!」
「…縁下」
「はい。ほらお前らバカなこと言ってない…」
龍之介君と夕君が今にも体育館から飛び出そうとしていたが、流石大地君と力君。まるで予測していたかのように、2人を確保していた。
「んで、京香さんなんで牛島がここに?」
「あーうん、私も理由がわかんないの。用事があるのは私なんだろうけど…」
烏野に居るって言ったら其方へ行くからってだけ言って電話切られちゃって…と話せば、様々なことを考えていたであろう大地君と孝支の肩の力が抜けたのがわかった。旭君はまだ固まっているようだけど…
「だから私、今日は先に上がらせて…」
「練習中失礼する。京香、迎えに来たぞ」
「ウ、ウシ…!ウシワ…っ!」
何とかして両者が相見えることを避けようと、先に上がると伝えようとした時、体育館の扉が開いてよく知った声が響いた。
その姿を見た翔陽君の動揺ぶりに、誰なのかすぐにわかった。既に遅かったようだ。
「はぁ…じゃあ私はこれで。ありがとうございました」
「お、お疲れ様です」
「縁下離せ!彼氏ヅラしやがって!俺らの京香さんが!」
「はいはい、どうどう…」
溜め息を吐いた後、烏養コーチや武田先生にぺこりとお辞儀をして荷物を持てば、これ以上ややこしくならないうちにと若利の元へ。龍之介君と夕君が暴れているのだけれど、うまく力君が押さえてくれている。
また今度みんなに謝らないとなあと思いながら歩けば、ザッと目の前に立ちはだかるように二つの影が並んだので、驚いて歩みを止めた。
それは私がこの2人と出会った時と同じような光景であった…