第6章 緊褌一番ー5日目ー
「よし、澤村一発締めて終わっとけ」
「ウスッ」
みんながバラバラと立ち上がったのを見て、円陣の邪魔にならないようにと少し外れると、ポケットに入れてあるスマホが振動し始めた。またメールか何かだろうと思ってそのままにしたのだが、何やら長い。もしかして電話か?と思えば慌ててポケットから取り出す。
やはり着信、その相手を見れば電話に出ないとと思って武田先生に断ってから体育館の外へ。
「も、もしもし。若利どうしたの?」
「京香か。今何処にいる」
「え、い、今?えーっと……」
「どうした、何処に居るのかと聞いている」
「あー、うん…か、烏野…」
若利には烏野のコーチをやっていることは伝えていない。最近顔を出して居ないのも大学が忙しいと思っているだろう。若利は怒っても口調が荒くなることはないし、勿論無理に何かすることもない。
しかし雰囲気が怖いのだ物凄く。怒っている時の若利に睨まれると私は何も言えなくなってしまうほどで。後は本気になった時。蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなる。
「烏野……わかった、今から其方へ向かう。そこにいろ」
「は?向かうって、ちょっと若利?!もしもし!若利!」
声色は怒っていないようでホッとする。しかし、理由も言わずに用件だけ言ってさっさと電話を切ってしまったようで、慌てて名前を呼んでも既に遅かった。
若利は昔からそうだった、私の返事を聞かないでどんどん話を進めて先に行って。当然のように私が後をついてくると思っている。
「ほんっと、お子ちゃま若利め…」
そんなところが可愛くもあり、私が見ててあげなきゃって思うところでもある。相変わらずの態度にクスリと笑ってスマホをポケットにしまってからハタと気付く。
ここは烏野高校で、私と一緒に居るのは男子バレー部なのだ、と。
徹君ほどではないだろうけど、翔陽君と飛雄君は若利に挑戦状突き付けてるし、恐らく烏野部員たちと出会えば何か起こるだろう。
とりあえず武田先生に若利が来るってこと伝えて、私は先に校門辺りで若利食い止めるって伝えなきゃと思って、急いで武田先生の元へと戻った。
「た、武田先生!ちょっと…」
「……えっ!牛島くんが?」
部員たちに聞こえないようにと手招きして、若利が此処に来ることを伝えたのだが、武田先生の驚いた声に部員たちがピクリと反応した。