第6章 緊褌一番ー5日目ー
「飛雄君、バス降りよ。ミーティング遅れちゃうよ」
「うっす」
ぶつぶつ言っていた飛雄君の肩を叩けば、ハッとしたような表情で頷いたのでバスから降りる。当然のように私の荷物を持ってくれていて、ありがとうと微笑んだ。
「京香さん、その…あざっす」
「ん?あー肩?どう致しまして。よく眠れてたみたいで良かった。私もいつの間にか寝てたし、合宿ってやっぱり体力使うよね」
「そうっすけど…」
もぞもぞ、また飛雄君の口が動く。何だろうと思えばそのまま彼の言葉が出てくるのをジッと見上げて待つ。
「その、何かすげえ安心したっつーか…起きたくねえって思って…」
恥ずかしいのかやっと出てきた言葉は聞き取るのが精一杯。頬は少し赤らみ、小さく唇を尖らせたような表情だ。
言い慣れていない彼の表情にクスクスと笑ってしまえば、少し大雑把に頭を撫でる。私の隣が安心するだなんて、なんて嬉しい言葉なのだろう。
「ありがとう」と微笑んで再び礼を言えば、「っす」とだけ返ってきた。
体育館に入れば、既に烏養コーチの周りにみんな集まっていて。
「遅えぞ京香!影山!」
「すみませーん!」
パタパタと走ってその輪に合流すれば、お前はこっちだと烏養コーチに手を引っ張られてみんなの前へ。きょとんとしていれば、お前はコーチだろうがと呆れられてしまった。
「集まったな?とりあえずは合宿お疲れさん。代表決定戦前に青城とあそこまで濃い合同合宿出来たのはデカイと思う。及川や岩泉のような強いサーブにも少しは慣れたんじゃねえか」
烏養コーチの言葉に夕君や大地君が力強く頷く。
でも、徹君も一君も代表決定戦には合宿よりも強烈なの打ってくる。私が教えたから!なんて言えるわけないから黙っておくけども。
今は徹君たちのサーブを上げられるということが、自信に繋がっているのではと思えば私も何度か小さく頷く。夕君や大地君なら、強烈になったスパイクのようなサーブでも上げられる。自然とそう思える。
「ま、何度も言っているが俺たちは挑戦者だ。強いのは青城だけじゃねえ…」
「わかってます。目の前の一戦、必ず勝ちます」
大地君からの力強い言葉に安心する。この子たちなら上を見過ぎて足元をすくわれることもないだろう。全員の闘志を宿った瞳にそう確信をした。