第6章 緊褌一番ー5日目ー
ーヴヴッ
どのくらい経っただろう、小さな振動音を感じて私は目を覚ました。ゆっくりと目を開けると、まだバスは走っているようで。
チラッと隣の飛雄君に目をやれば、何かと戦っているのかギリギリと歯ぎしりをするように口元が動いていて眉間に皺を寄せて眠っている。何だか可愛らしくて、小さく笑いそっと黒髪に手を伸ばして撫でてあげれば次第に表情が柔らかくなってきて。
そういえばさっき携帯が震えたんだと思い出せば、飛雄君の髪から手を退けてポケットに入っているスマホを取り出す。起こしてないよね、と気にしながら操作をする。
『そろそろ烏野に着く頃かな?こっちはミーティング終わって今から自主練だよ。
この合宿で京香ちゃんに出会えて、本当良かったよ。色んなことあったけどね。必ず代表決定戦までにはサーブ完璧にしてみせるから。だからちゃんと俺のことも見ててね☆
烏野もウシワカも倒して全国へ行く。俺たちにも翼を与えてくれてありがとう。最後の春高、俺は君に捧げます。
デート楽しみにしててね☆』
差出人は徹君。本当にマメな性格なんだなあと感じた。
私も合宿楽しかった、たくさん迷惑かけてごめんね、私たちマネージャーのことも考えてくれてありがとう、代表決定戦での徹君のサーブ期待してますということを書いて送信。
「デート、か……」
「ん?京香さん誰かとデートすんの?」
「っ?!」
思わず零れた言葉を誰かに聞かれたらしい、いきなり声をかけられれば驚いて息をのむ。身体もビクッとさせてしまえば、肩に凭れている飛雄君を起こしてしまってないかと恐る恐る隣を見る。
ーが、どうやら爆睡しているようで規律正しく胸が上下し、寝息が聞こえてきたので安心した。
「ごめん、びっくりさせたかな」
「だ、大丈夫。孝支君は寝なくていいの?」
「さっきまで寝てて、今起きたとこ」
周りを起こさぬようにとコソコソと小声で話す。
「んで、誰かとデートするの?」
「え、あー…ううん、私じゃなくて友達の話」
「ふぅん…及川とかに先越されたかと思った」
不意に孝支君から出た名前にビクッとする。やはり徹君とのデートのことを話すのは止めた方がいいらしい。まあ、大学の予定がまだわからないから確定事項ではないのだけれど。
暫くするとバスがゆっくりと坂を登り始め、烏野高校へと到着した。