第6章 緊褌一番ー5日目ー
「あ!…ほんっと生意気なクソガキ」
「お、及川さん落ち着いて下さい」
はっきりと何て言っているのかは聞こえないものの、徹君の眉がピクピクとしているのが見える為、怒っているということがわかる。それを慌ててるような金田一君が必死に宥めているようだ。
「飛雄君、徹君可哀想だよ?」
「京香さんに何かあったらその方が嫌っすから」
隣の飛雄君へと視線を移せば、ムスッとしていて。左手を掴んでいる力が少し強くなった気がして、私は大人しくしていることにした。
「ほら影山、いい加減京香さんの手離せよー、お前力強いんだから」
「あっ、す、すんません」
「大丈夫大丈夫!さっき乗り出した時に掴んでくれてたからバスから落ちる心配もなかったし」
最後にバスに乗ってきた孝支君と大地君。どうやら私たちの前の席のようで、孝支君が座る時に未だに掴まれている手を指差して指摘すれば、思い出したようにバッと勢いよく離された。
少しだけ掴まれていた部分が赤くなった私の手を心配するように瞳が揺らいだ飛雄君。少しだけ痛かったけど、首を振って微笑めば安心したように少し力が抜けたのを感じた。
「みなさん居ますねー?忘れ物もありませんね?出発しますよー」
武田先生からの確認に頷けば、ゆっくりとバスが動き始める。
翔陽君や龍之介君、夕君は大きく手を振っていて。
大地君や孝支君も手を振っているのが見えた。
私も手を振ってくれている青城部員に向けて手を振った。
もう二度と会えないってわけじゃないのに、同じ県内に居てすぐに会える距離なのに、何故だかとても寂しくて胸がキュッと締め付けられる。
烏野ともあと一ヶ月程か、と感傷に浸ってしまい軽く首を振る。まだ私はこの子たちの成長を見届けなければならない。感傷に浸っている暇なんてないのだ、と。
ふと、視界の端で黒い頭がカクカクと上下に揺れているのが映った。
余程疲れたのだろうか、或いは合宿が終わった安心感か。行きと違って静かな車内、みんな疲れて寝てしまったというところか。
クスリと笑えばそっと飛雄君の頭を私の肩に乗せる。うん、起こさなかったらしい。そのまま肩に重みが増したのを感じれば、何だか私までうとうととしてきて。
瞼が重たくなってきて自然と綴じられれば、誘われるままに意識を手放した。