第6章 緊褌一番ー5日目ー
「澤村クン、何で京香ちゃんの隣が飛雄なワケ?」
「仕方ないだろう、クジで公平に決まったんだ」
「…及川さんには関係ないっすよね」
「ま、まあ及川も影山も落ち着けって!」
徹君の笑みが少し引きつっている。孝支君が慌てて2人を宥めようとしているのだが効果はあるのだろうか。
せっかくいい雰囲気で終わろうとしてたのに…やっぱりこの2人は相変わらずなのか。
「2人ともいい加減に…」
「クソ川ボゲェ!迷惑かけてんじゃねえよ!」
「痛っ!」
私が怒ろうと口を開いたが、それよりも大きな声で怒ってくれたのは頼れる副主将一君。もちろん、徹君に拳骨のおまけ付きで。
この合宿中に徹君は一体何回の拳骨をもらっているのだろうかと数えたくなるくらいで、可哀想だと思うものの、全体的に叩かれたり物を投げられたりとされていたことが多かったのを思い出せば、愛のムチか何かなのだろうなと妙に納得してしまった。
「悪いな、ほらこいつが静かなうちにバス乗れ。キリがねえから」
「最後まで助かったよ岩泉。来月…負けないからな」
「あぁ、こっちだって負けるつもりはねえ。次も、俺たちが勝つ」
一君と大地君とで強い握手が交わされた。
2人共凄くいい表情で、やっぱり高校生っていいなぁなんて思う。
バスの付近では翔陽君と金田一君も闘志を燃やしたような表情で話しているし、これは飛雄君も向かわせなきゃと思えば、行くよ!と微笑んで掴まれている手を掴み返してバスの方へ。
「あ!京香さん。と影山!お前もちゃんと言えよー!次は負けねえってさ」
「あ…お、おう…」
私たちを見つけてくれた翔陽君が大きく手を振ってくれたので振り返す。飛雄君も金田一君もお互いを目の前にすると表情が強張ってしまったが。
翔陽君は満足したのか金田一君に手を振ってからバスに乗り込んでいったので、私も乗り込もうかと思ったのだが、ギュッと掴まれている手の力が強くなれば振り払うことも出来なくて動けずにいた。
2人の間で沈黙が続く。
飛雄君の口元がもぞもぞとしている。何かを言いたい時の彼だ。頑張れ!と心の中で声援を送り、そっと私の手を掴んでいる彼の手に自分の手を重ねた。
驚いたような表情で見つめてきたので黙って微笑んで頷けば、わかってくれたのかその瞳は真っ直ぐ金田一君へと向けられた。