第6章 緊褌一番ー5日目ー
ドキドキと心臓の音がうるさい。周りにも聞こえるんじゃないかというくらい鳴り響いているような錯覚に陥る。
いつまでもここに居るわけにはいかないし、何とか落ち着かせるために大きな溜め息を吐いた。
「でっけえ溜め息」
「っ?!」
いきなり頭上から聞こえてきた誰かの声に吃驚すれば勢いよく頭を上げる。その反応が面白かったのかニシシと笑っている彼は、私の前に座ればオレンジジュースの缶を差し出してくれて。
私がありがとうと受け取れば、自分の分の缶ジュースをプシュッとあけて飲み始めた。
短い前髪の彼、貴大君は首にタオルを巻いているとこを見る限り掃除をしていてのどが渇いたからと1階に降りてきたというとこだろう。
「何、なんか悩んでた?また誰かに告白でもされた?」
「む、楽しんでるでしょ。まあ…その…似たようなもんだけど…」
「あーやっぱり。こりゃあいつの背中蹴り上げてやんねえとな」
「ん?あいつ…?」
「んーん、こっちの話。んで、京香さんはグラッときちゃったわけだ」
私はそんなにわかりやすいのか、ズバリ言い当てられてしまえば素直に頷いた。薄く苦笑いのような表情浮かべてから何か呟いた彼だがはぐらかされてしまい、次第にそれはニヤニヤと意地悪なような楽しんでるような笑みへと変わっていった。
「無言は肯定と見なすけど?」
「ええっ…!」
私が何て答えれば良いかと悩んでいると、未だにニヤニヤ顔の貴大君は指先で缶を弄りながら私の様子を伺う。
「ほら、吐いたら楽になるぜ?オニーサンが話聞いてあげるからさ」
「ふふ、本当?オニーサンに話したら楽になるのかな?」
「なるなる!恋愛上手な貴大オニーサンに任せておけって」
「確かに貴大君は女の子の扱いに慣れてそうだものね」
「そう?及川ほどじゃねえよ。あいつの行く先々に女の子が居なかった試しがねえ」
「そんなに?はー…流石徹君…」
段々と話題はズレていき、程々に誤魔化せたのかなとホッとする。頂きますと貰った缶ジュースをあけて飲みながら、暫く貴大君との恋愛話は続いて。
いつの間にか、私の気持ちも落ち着いてきたのは貴大君のおかげだろう。