第6章 緊褌一番ー5日目ー
ボールを持ってきた徹君、私が見やすい位置に移動すれば一つボールを掴んで深呼吸をした。
目を瞑り、スッと開けられたその表情は真剣そのもの。こうも普段とのギャップがあるものなのかと不思議に思ってしまう。
手の中でシュルルと回したボールを止め、大きく息を吐き出せばトスが上がった。思い切り踏み込んで手を振り切ったジャンプサーブは、今までのサーブよりは威力は少し増したように見えたものの、エンドラインを大きく越えていて。
「あ゛ああ!威力もあんまり変わってないし…京香ちゃんどうすればいい?」
「うーんそうだなあ…肩だけで打つと負担かかるし…」
ジッとサーブを見ていて気付いたところが何点か。頭を抱えている徹君の方へと行けばそれを話す。
トスの高さから踏み込み方、ジャンプの高さ、手の振り切り。
一つ一つ丁寧に徹君と確認しながらやっていく。
「うん、そんな感じじゃないかな?徹君一本打ってみよう」
私がふわりと投げたボールをパシッと受け止めた徹君。頷いてくれたのを見れば、先程見ていた場所へと戻る。
再び徹君が集中する。キリッとしたその表情に吸い込まれるような、釘付けになるような…凄く魅力的で思わずドキッとしてしまう。だからこそ徹君にはファンがあんなにも居るんだなと納得出来るような、そんな雰囲気を纏っている。
先程よりも少し高めのトス、助走、態勢を低くしてからの踏み込み。うん、今のところ完璧だ。あとはしっかりと身体全体を使って振り切れるかどうか。
ーーバシンッ!
徹君が腕を振り切ったと思ったら、反対のコートから物凄い音が聞こえてビクッとした。
軌道が全く見えなかった。着地点に叩きつけられたのがギリギリわかったくらい。威力もスパイク並み、コート内にも入ってる。
「徹君!凄い凄い!今のだよ今の!」
私が興奮して徹君に駆け寄り、ぴょんぴょんとすれば嬉しそうに笑った徹君。今の感触を閉じ込めるようにグッとキツく拳を握った。
「ありがとう京香ちゃん。流石的確なアドバイス」
「ううん、それを実行出来た徹君が凄いんだよ。ほら、忘れないうちにもっとやろ!」
ボールを渡せば、サーブ練習が再開される。威力は完璧なのだが、やはりコントロールはいまいちで。昼食だと呼ばれるまで私と徹君のサーブ練習は続けられた。