第6章 緊褌一番ー5日目ー
「悪ぃな、お前らの大事な京香をちょいと借りてた」
「うひゃ!ちょっ烏養コーチ!」
「烏養コーチ、京香さんに何もしてないっすよね」
「んぁ?俺が何かするとでも思うのかよ」
「京香ちゃん大丈夫?」
「へ?う、うん別に何も…大丈夫だよ」
「良かったー、また何かに巻き込まれたかと思ったべ」
態とらしく私の肩を抱いた烏養コーチ。それに食ってかかるように睨み付けて引き剥がしたのは飛雄君と徹君。
仲が悪いとか言ってるくせに、慣れたような連携だ。
烏養コーチも高校生相手にふざけ過ぎだ。烏野の話をしていたとどうして言わないのか…
徹君は本当に心配してくれているようで、両肩を掴まれ見つめられればコクコクと頷いた。
少し離れたところでは大地君、孝支君、一君たち保護者とも言えるような面々が、また安堵の息を漏らしたようだ。
「もう、みんな心配し過ぎ。烏養コーチも高校生たちで遊ばないで下さい」
「クク、お前らちゃんと自主練しろよー」
ポケットから煙草を出して口に咥えた烏養コーチは手をヒラヒラとさせて体育館を出て行ってしまった。
「心配し過ぎって言うけどね、それだけ俺たちは京香ちゃんのこと大事に思ってるんだからね?」
目の前にいる徹君の言葉に、周りが頷いたのが見えた。
まあ、わからなくもないけれど…やはり過保護すぎるのではないだろうか。しかし、今は何を言っても通用しそうもないのでやめておく。
「コーチ同士の話をしてただけ。ほら主将たちがサボってどうすんの!…心配、してくれてありがと」
徹君や飛雄君の背中を押して自主練へと向かわせようとする。2人を見守っていた3人の所まで押してから、小さい声だが礼を述べた。
「「京香さ」」
「京香ちゃん!今日こそ自主練付き合ってくれるよね!」
飛雄君と孝支君に同時に名前を呼ばれ、其方を向いたのだが2人の声に被せて私の手を引いたのは徹君。半ば強引に引っ張られて。
「及川!」
「及川さん!」
「全く強引だなあ…」
呼び止めるような声が聞こえたのだが、徹君の歩みは止まらなくて引っ張られるままに私は連れて行かれるのであった。