第6章 緊褌一番ー5日目ー
「さーて、そろそろ体育館戻るか。お前が居ねえって騒いでそうだしな」
「ふふ、流石にそれはないですよ。御飯作りに行ってるんじゃないかって思ってるんじゃないですか?」
大きく伸びをしてから立ち上がった烏養コーチに続いて私も立ち上がる。部屋を出て行こうとする烏養コーチを呼び止めると、振り返ってくれた彼に軽く頭を下げた。
「私を烏野のコーチ補佐として声を掛けて下さって本当にありがとうございました。私、烏野と出会えて、烏養コーチや武田先生と出会えて、本当に良かったです」
「ばーか、そう言うのは全部終わってからにしろ。まだまだお前には働いてもらうぞ」
「はい!」
ゆっくりと顔を上げれば、口元を吊り上げて笑う烏養コーチ。私が笑顔になって頷けば満足そうに笑って。
「相変わらず白鳥沢の情報はくれねえくせにな」
「そ、それはダメです!若利が左だって大地君や夕君には伝えましたし。それ以上は…」
「クク、わーってるよ。酒でも盛りゃ、簡単に吐きそうだけどな」
「お酒って…!それはズルいです!の、飲みませんからね」
歩調を私に合わせてくれ、2人で体育館へと話しながら戻る。烏養コーチの言葉はからかっているだけなのだろうが、本当にやりかねないと少し警戒するように距離を置けば、また豪快に笑われた。
「んなことやんねえよ。本当お前は面白えな。俺も酒は強くねえし」
「笑い過ぎです…え、烏養コーチお酒強くないんですか?」
「んだよその目。煙草は吸うが酒はあんま飲まねえよ」
どーせ見た目がこんなだから酒も煙草もやるように見えるんだろうがな、と少し拗ねたような烏養コーチが可愛らしくてクスクスと笑ってしまう。
自分は豪快に笑っておきながら、私が笑うと気に触るのか、笑うんじゃねえよ!とまた少し乱暴に頭を撫でられた。
いや、さっきのことで判ったが、烏養コーチが頭を撫でる時は照れ隠し。尚も笑っていると、いい加減にしろと小突かれてしまった。
体育館に戻ると、自主練しているはずの部員たちが慌てていて。
「京香さん!」
「京香ちゃん!」
私の姿を確認するなり、駆け寄ってきた彼らに驚いて戸惑っていれば、ほらな。とドヤ顔の烏養コーチはまたケラケラと笑い出した。