第6章 緊褌一番ー5日目ー
「はぁ、やっぱお前に相談して正解だわ。前にな、正セッターを菅原と影山で悩んでいた時、菅原に言われたんだ。
『俺ら3年には"来年"がないです。だから、ひとつでも多く勝ちたいです。次へ進む切符が欲しいです。それを取ることが出来るのが俺より影山なら迷わず影山を選ぶべきだと思います。』
ってよ。…俺もさ、お世辞にも上手いセッターじゃなかったからあいつらの気持ちわかんだよ。戦況に応じて選手を選ぶ…ここまで大変なことだとはな…」
「でも、選手は応えてくれますよ。飛雄君も正セッターとしての意欲、向上心、闘争心、責任、兼ね備えていますし。孝支君だって新しい武器を身に付けようとしている。いつ自分がセッターとしてコートに入ってもいい様に。忠君だって、この合宿で成長して武器を手にしようとしています。だから私たち指導者は信じてあげれば良いんです。彼らを、彼らの力を、積み上げてきた経験を…なんて偉そうなこと言ってすみません」
私の話を聞いてくれた烏養コーチ。ひと通り喋ってから、何偉そうに言ってんだ私はと気付けば謝る。
大学生のガキが偉そうに、なんて言われるかなってビクビクしたけれど、烏養コーチの笑い声と大きい手で頭を撫でられれば予想外な反応に吃驚した。
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。お前はやっぱ"勝利の女神様"って言われるだけはあるな。良い観察眼を持ってる。俺よりコーチらしいじゃねえか」
一頻り笑った後、ニヤリとしたような烏養コーチ独特な笑い方をして頭をぐしゃぐしゃっと撫でられて。
「ちょ、烏養コーチっ」
「京香。代表決定戦までもう日がねえ…頼む、あいつらが後悔しねえように、本番で力を出せるように…お前の力を貸してくれ」
「…はい!」
少し乱暴に頭を撫でられたのは烏養コーチの照れ隠しか、手を乗せられたままなのであまり表情は見えないけども。
私が返事をすれば、やっと頭から手を退かしてくれて。ぐしゃぐしゃになってしまった髪を直しながらチラッと表情を伺えば、私を此処に呼んだ時とは別人のようにスッキリとした表情で。
烏養コーチの力になれたのなら良かった、と気付かれないようにそっと微笑んだ。