第5章 共同戦線ー4日目ー
「あぁっ、私の…!飛雄君、落としたら負けだからね!」
「はぁ?ちょ、奪ったら勝ちって言ったっすよ俺!」
「それで良いなんて私言ってないもん!こら、私の返せー」
「ちょ、京香さん!落ちるっ」
「落としてしまえ!」
動揺した飛雄君の手元が揺れる。私の線香花火の分まで大きくなっている玉はその揺れに今にも落ちそうになっていて。
私が光さえも消えてしまった線香花火でちょっかいをかければ、取られまいとする飛雄君とのちょっとした争いが勃発した。
「「あ…」」
シュッと揺れに耐え切れなくて落ちてしまった線香花火。
私たちの声が揃い、どちらともなく顔を見合わせれば、子供のような言い合いに私は笑ってしまった。飛雄君も少し呆れたような表情であるが、普段とは違って柔らかい気がする。
「しょうがないから、何でもじゃないけど聞いてあげる」
「…良いんすか」
「楽しかったから特別!要らないならいいけど」
「いやっ!要ります!」
花火が消えて、私たちの周囲はまた暗闇に包まれた。
慌てたような飛雄君は、私の両肩をガシッと掴んでジッと見つめてくる。相変わらず表情は不機嫌なような、眉間に皺が寄っているような。暗闇なのであまりよくはわからないが。
何を言われるのだろうかと、すこしドキドキしながら待つ。
「休日の練習後、俺が満足するまで自主練に付き合って下さい」
「自主練に…?」
小さく頷いた飛雄君。そうだ、この子はバレー馬鹿だった。デートしようだの、キスしてくれだの、言うはずがないのだ。
変に構えてしまった自分が恥ずかしい。期待していたとでも言うのか。相手は高校1年だぞ、しっかりしろ私。
烏野コーチとしても、とことん付き合わないと。無理しそうなら私が止める。飛雄君もこれからの日本を背負う大切な選手になる。
「よし、任せなさい!」
「あざっす!」
私が微笑んで頷けば、少しだけ目を輝かせた飛雄君。
「罰ゲームなしでもう一回勝負!」
「また俺が勝って、凹んでも知らねえっすよ」
「さっきのは引き分けでしょー!」
「いーや、俺が勝ちました!」
飛雄君に線香花火を差し出せば、また子供のような言い合いが。
「か、影山が笑ってる…」
「京香さんすげえ…」
烏野部員たちが私たちを見て驚いていたことは、後々になって知らされたのであった。