第5章 共同戦線ー4日目ー
「飛雄君、トスはどんな感じ?うまく翔陽君とやれそう?」
「はい、何とかいけそうです」
「そっか、それは良かった。たくさん練習してるものね。セッターってさ、一番多くボールに触れるからその分一番疲れるポジションだと思うの。烏野のセッターには孝支君もいる…無茶だけはしたらダメだよ」
「っす。…でも、1分でも1秒でも多くコートに立ちてぇって思うんです」
「うん、よくわかるよその気持ち。私も選手だった頃はそう思ってた。まだバテてない、私はまだ飛べる、決めてやるって…」
視線は花火に向けられたまま、静かに飛雄君は私の話を聞いてくれている。
「でもね、1人でも倒れたら終わりなの。バレーは個人技じゃなく、チームだから。その疲れが、一瞬の手元の狂いが、チームを敗北へと引きずり込む」
その意味、わかるよね。と少し顔を覗き込めば眉間に皺を寄せて少しだけ考える仕草をした後に頷いてくれた。
「よし!飛雄君勝負しよ!」
「は?勝負…?」
「うん!線香花火でどっちが長く落とさないでいられるか!」
「…負けたら罰ゲームで、一つ言うこと聞くってのどうっすか」
私の提案にポカンとした表情を浮かべた飛雄君だが、自信があるのか不敵な笑みを浮かべながら私に線香花火を差し出してきた。
罰ゲームってのがちょっと引っかかるけど、ここで後込みは出来ない。臨むところだ!と笑って線香花火を受け取る。しかし、言い出したのは自分のくせに緊張してきたようだ。
シュッとライターに火をつけて、お互いの線香花火に点火する。
ジジジ…と小さな音を立てながら線香花火に火が付けば、自然と真剣な顔付きに。風でゆらゆらと揺れはじめれば、必死に落とさないように守る。
少しずつ火花が散り始めて、玉が大きくなってくる。
チラッと飛雄君を見ると、彼の表情も真剣で。
また風が吹き始めれば、線香花火はゆらゆらと揺れて、あろうことか飛雄君が持っているそれとピタリくっ付いてしまった。
「え、うそくっ付いた?!」
「これ、奪っても勝ちってことで良いっすよね」
どういうことかと、線香花火から視線を飛雄君に移した私は、口元を引き上げた彼の表情にまた視線を戻す。
そこには大きくなった飛雄君の線香花火と、先端が少しだけ光っている私の線香花火が…
これは、飛雄君に奪われた私の負けなのだろうか……