第5章 共同戦線ー4日目ー
私が手を出したことによって、みんなの視線が集まる。
「もしかしてなんだけど、そのシンクロ攻撃は全員?ブロックフォローなしなの?」
「はい、そのつもりです。しっかりとコースを打ち分けて相手を揺さぶることが出来れば、不可能じゃ」
「理屈はわかる。確かに不可能ではない。でもリスクが大きい。仮に読まれたら…」
そこまで言ったところで、ある身近な人物を思い出した。白鳥沢には彼が居る。私とプレーが似ている彼…覚だ。
仮に、ことごとく覚に読まれたら?
…その時の精神的なものは相当だろう。それを乗り越えられるかどうか。
しかし、改めて四人の表情を見ると、私が何を言っても無駄なような気がしてきた。必ず新しい烏野の武器にしてやる、そんな表情。
これはコーチとしてリスク回避する時じゃなくて、如何に成功率を上げることが出来るかの選択をするべきなのだろう。
…わかった。
私が観念してそう言えば、忽ち笑顔になった四人。
私がボール出しをしながら夕君にトスを教える。思った以上にオーバートスが苦手なようで、ダブルコンタクトをとられそうなそのフォームにヒヤヒヤする。
孝支君にも聞きながら、夕君のオーバートスを練習する。各々の打点を確認しながら丁寧に。ジャンピングトスになる為、普通にトスを上げるよりも難しいのだ。
何度もやっていけば、未だにボコッと怪しい音はするけどもシンクロ攻撃が様になってきた。
「だいぶ様になってきたね。あとは夕君がトス上げる前に、ブロッカーの位置をちゃんと確認すること。捕まったら終わりだからね」
「了解っす!」
「後は、このシンクロ攻撃をやるタイミングをしっかりと見極めること。読まれてブロックに捕まっても心を強く持つこと」
「「はいっ!」」
「うん、大丈夫。新しい武器になるよ」
私が力強く頷けば、目を輝かせた四人。何やら龍之介君がウズウズとしている。
「だぁあらっしゃああ!!」
「うわああ!おい田中脱ぐな!」
「京香さん見ちゃダメ!」
「うおお!俺も燃えてきたぜ龍!」
「西谷も落ち着けー!」
気合いなのか奇声なのか雄叫びなのか、いきなり大きな声を出した龍之介君はいきなりTシャツを脱ぎ出してそれを振り回す。サッカーの試合でゴールを決めて興奮した選手のように。
声にビクッとした私は、直ぐに誰かの手によって視界が遮られた。