第5章 共同戦線ー4日目ー
「前にも話したけど、若利は"左"だからブロックに引っ掛けないとレシーブするのは難しいと思う。いくら私の左スパイクとはパワーが違いすぎる」
「西谷でも、ですか?」
「うーん…夕君なら慣れればいけそうだけど。でもそれはリスクが大きすぎる。でも大地君」
「わかってます。目の前の一戦、しっかりと勝ちます」
先ばかり見つめていたら足元すくわれるよ、そう言おうとした私の言葉を制するように口を開いた大地君。その表情ににっこりと笑って私も頷いた。
「あ、いたいた。澤村くん!ちょっとー」
「ん?あぁ。じゃあ京香さん、ありがとうございました」
「どう致しまして。無理しないでね!」
大地君を探しにきたのは、なんと徹君。珍しいこともあるもんだと思いながらも二人が話している様子を少し離れて見つめる。
主将同士、何かあるのだろうなと思えば学校を越えた交流に思わず頬が緩んでくる。高校生っていいな…
「京香さーん!」
大きな声で呼ばれてビクッとする。声のした方を見ると、夕君が思いっきり手を振っているのが見えた。
救急箱を片付けて、呼ばれた方へ向かうとそこには旭君と孝支君と龍之介君まで揃っていた。
「京香さん、俺にオーバートス教えてください!」
「んぇ?夕君がオーバートス?トスなら孝支君が居るじゃない」
「あー、俺も教えてるんだけど…俺と西谷の感覚が違いすぎて…」
「そういうことなら構わないけど…でもどうして?」
突然のその言葉に疑問を感じつつも頷けば、青城にも内緒にしておきたいからと第一体育館に連れてかれた。
夕君がトスを上げるってことは孝支君は打つの?孝支君が打ちたいってだけ?…いや、彼はそういうタイプではない。
孝支君が打ちたいっていうのなら飛雄君とのツーセッターの練習をすれば済む話だ。
「あのさ、無謀なことかもしれないけど…でもやってみたいことがあって」
第一体育館に着けば、事の趣旨を話し始めたのは孝支君。
どうやらこの試みは孝支君提案のようだ。
話を聞いていて、思わず混乱してくる。
孝支君がセッターでの試合の時、夕君がアタックラインギリギリで踏み込んでオーバートス。それは可能なんだけども…じゃあアタッカーは…もしかして全員?!
「え、ちょ、ちょっと待って!」
説明してくれている孝支君を遮る形で私は手を出した。