第5章 共同戦線ー4日目ー
「お待たせしました。学校へ戻りましょうか」
「あ、はい。すみませんありがとうございます」
鎮痛剤が処方されたようです、と薬を差し出してくれた武田先生は携帯を握ったままの私を不思議そうにみていたが、わたしが薬を受け取って立ち上がれば歩き出した。
私も続いて歩けば、また震えた携帯。
『10月頭の日曜日、午前練だけだから午後空けといてね☆』
私が返事していないのに、既読をつけたことで了承したものと捉えたのだろうか。勝手に予定を決められてしまい、思わず大きな声を出しそうになるも、大学の予定を確認してみると返事をした。
再び武田先生の車に乗れば、そんなに時間もかからずに学校に着いた。一度着替えてから体育館に行くと伝えれば、マネージャーの仕事は清水さんと谷地さんに任せてコーチに専念して下さいと言われて頷いた。
合宿所の方に戻り、マネージャーの部屋へと入れば服を着替える。本当はシャワーでも浴びたい気分だが、夜まで我慢するしかないようだ。
大学のジャージがまだ乾いていない為、仕方なく白鳥沢のジャージを羽織る。打倒白鳥沢を掲げている両校にとってあまり良いものではないとは思うが…
合宿所を出て、体育館へ向かう。
段々と部員たちの声が、ボールの音が、シューズの音が大きくなる。それに伴い私の気持ちも大きくなっていくのがわかる。
扉を開けると、一斉に向けられる視線。
「ただいま戻りました!ご迷惑おかけしました!」
軽く頭を下げながら言えば、忽ち笑顔になったみんなの表情を見て安心する。
「京香さん!我らが女神!」
「京香さん!あの、俺にスパイク」
「ちょっとチビちゃん!京香ちゃんは俺とサーブ練するの!」
龍之介君と夕君は目を輝かせて女神と連発しているし、駆け寄ってきた翔陽君に徹君が突っかかってきて、一君がボールを徹君に投げ付けだし、それを見て貴大君と一静君はゲラゲラと笑っている。
ーーカオスだ。いや、でもそれが彼らなのだ。
その光景が微笑ましくて、クスクス笑っているとふと感じた視線。誰だろうと振り返れば、そこには飛雄君。
「そのジャージ…」
「ん?あぁ、大学のジャージ乾いてなくて仕方なく。コレ高校の時に着てた白鳥沢のジャージ。飛雄君も確か白鳥沢受けたんだよね」
「はい、でも……」
ー頷いた彼の表情に、後悔の色はなかった。