第5章 共同戦線ー4日目ー
「彼らは真っ直ぐですから、戸惑ったでしょう」
言葉を探している私に続けた武田先生。その口振りからは私が何に悩んでいるのかもわかっているようだった。
私がコクリと頷けば、すみません僕が合宿に誘ったばっかりに、と眉を下げたので慌てて首を振る。こんなにバレーと関われて、有望な選手ばかりだから楽しいとフォローをして。
「大人びていても彼らはまだ高校生です。数ヶ月前まで中学生だった子も居ます。だから、自分のことで精一杯で…そこは、わかってあげて下さい」
「はい、わかってます。だからこそ考えちゃうんです。彼らにはもっと相応しい子が居るのにって…」
「そうですね、難しいところですね。でもきっと京香さんに抱いている思いは真実ですから、今は受け止めてあげて下さい」
「受け止める…?」
「ええ、もっと相応しい子がって拒絶するのではなく…僕は彼らをいつも見ているのでわかります。簡単に想いを変えられる子たちじゃないです。今は青春の真っただ中にいる彼らを受け止めて、支えてあげて下さい」
「……」
「彼ら自身もよくわかっていると思います。今、優先すべきは目の前の代表決定戦だって。どの学校も全国へ行こうともがいています。それを、我々は支えてあげましょう」
答えてあげるのはそれからでも遅くありません。ね、と微笑んだ武田先生。少し考えれば、わかりましたと私も頷いた。とりあえず今はバレー優先。うん、その通りだ。恐らく青城か烏野が白鳥沢と決勝戦であたる。その時に十分に力を発揮することが出来るように…
「僕もまだ結婚していませんし、彼女と呼べるような女性も居ませんから偉そうなことは言えませんが…全てが終わった時、心の中に誰かが居ればその人に答えてあげれば良いんだと思います」
「心の中に…」
「ほら、離れてからその人の存在が大きくなるってことあるじゃないですか。だからこそ彼らは今、京香さんの心に残りたくて必死なんです」
暫く車を走らせて、大学病院に着けば駐車場に停めてから話し始めた武田先生。なんだか凄く大人に見えた、なんて失礼だから言えないけども。
車から降りた武田先生は、乗る時同様助手席のドアを開けてくれて私はまたドキドキしながら車から降りた。
こんな紳士的な人に彼女が居ないなんて、また不思議な話だとマジマジと見つめてしまった。