第4章 磨斧作針ー3日目ー
「ウシワカのこともあって、京香ちゃんは天才にしか興味ないんだなって勝手に思い込んで。どうせ俺は天才じゃないからって…ガキみたいに拗ねて、練習するしかないって思って。俺は天才が嫌い…何でも卒なくこなして。俺が必死に練習して身に付けた武器も簡単に扱うあいつらが…」
徹君の表情が段々と曇ってくる。私の手を握っている力が強くなれば、それに応えるように私も握り返す。大丈夫だと伝わるように。
「だから京香ちゃんを避けた。ごめん、傷付けたよね。でもね、何で俺またああなったんだって考えたらさ」
そこまで言って言葉が途切れれば、深呼吸している徹君。いつになく真剣な表情になった彼を見ればその先の言葉が予測出来た。
いやいや、彼はモテるじゃないか。女の子なんて選びたい放題なのに…
「京香ちゃん、俺やっと認めることが出来たんだ自分の気持ち。京香ちゃんが階段から落ちそうになった時も、帰って来なくて探しに行った時も。不安になっておかしくなりそうだった。烏野と笑ってる姿を見ると苦しくなる。今まで彼女って居たけどさ、こんな感情になるのは初めてなんだ」
ジッと私を真っ直ぐに見つめてくる徹君の顔をまともに見れない。ドキドキと鼓動が激しくなって、落ち着け!と思っても治りそうもない。
「最初は面白そうって思っただけ。烏野に、飛雄や菅原くん澤村くんに愛されてるのがわかったから。でも実際に話して、数日間過ごして…いつの間にか俺も本気になってたんだ」
ここまで黙って聞いていて、予測は確信へと変わる。
これは人生で何度かあると言われているモテ期というものなのだろうか。しかし私は少女漫画のヒロインのように可愛くもないし、守ってあげたくなるようなタイプでもない。何かのドッキリ?なんて思考が変な方向へと向かえば、突然徹君が噴き出した。
「あっはは!百面相して、俺が真剣に話してるのに何考えてるの。まあ、素直に俺の彼女になりなよ京香ちゃん」
ー本気で、君のこと好きだから。
綺麗に微笑む徹君に照れてしまって顔に熱が集まるのがわかれば、思い切り顔をそらす。それに気を良くしたのか満足そうに笑えば、岩ちゃんたちに目が覚めたこと言ってくるねとわたしの返事を待たずに保健室を出て行ってしまった。