第4章 磨斧作針ー3日目ー
「はぁあ……」
私の盛大な溜め息は誰にも聞かれることなく、一人となった保健室に響いた。
全く、みんな好き勝手に言うだけ言ってスッキリした顔しやがって…なんて悪態をついてみるものの、答えを出さなきゃいけない人数が増えたことに頭を悩ませる。
今日を含めて合宿はあと2日。
今更ながらに5日間参加しますなんて言わなきゃ良かったと思うものの、まだ指導すべきフォームやら何やらが残っていることを考えれば、とりあえずはバレーに集中しないとと軽く頭を振る。
ふと、側の机に置かれたノートに気付いて手を伸ばす。
これは私のノートだ。昨日徹君に投げ付けられたけど…読んでくれたのかな。
ガラガラっと大きな音を立てて扉が開いたので、其方の方を向けば走ってきたのであろう、肩で呼吸を繰り返している一君だった。
いつも冷静な彼がこんなにあせるなんて珍しい、と思いながらも微笑んでからどうぞと手招きすれば近付いてきていきなり頭を下げたからびっくりした。
「はじ…」
「すみませんでした。及川のこと聞いて、こうなること予測出来たのに…俺が止めに行けばこんなことには…」
「一君頭を上げて?君のせいじゃないから…それにほら、私元気だし!徹君とも誤解とけたから…心配かけてごめんね」
走ってきてくれてありがとう、と言えば頭を上げた一君。私が椅子に座るよう促せば、失礼しますと言ってから座った。
やはり一君と二人きりだと無言になってしまう。何か話さなくては、と思うのだがさて何を話そうかと考えていると一君が口を開いた。
「良かったです、京香さんが目を覚ましてくれて。あと、及川のことありがとうございました」
「私は何も…徹君は自分で気付けたから。徹君言ってたよ、前にも同じことあって一君に救われたって…一君は徹君のいい相棒だね」
私が微笑めば小さく頷いた一君。照れているのか少しだけ顔が赤かった。それに小さく笑えば、笑わないで下さいって眉間に皺が寄ったのでごめんと謝りながらも、私たちの間は柔らかい雰囲気に包まれた。
トントンとノックの音が聞こえたので、どうぞと返事をする。
失礼しますねという声と共に姿を見せたのは武田先生だった。
椅子から立ち上がった一君にそのままで良いですよと言いながら、いつもの穏やかな雰囲気を纏い、にこりと微笑んだ。