第4章 磨斧作針ー3日目ー
気が付いたら見知らぬ場所だった。身体が少し怠い。ぶつけたであろう後頭部がまだ痛い。しかし、視界は良好、脳震とうは起こしていないようだ。
真っ白い天井に壁、ほのかに匂う消毒の匂い。
あ、もしかして保健室かもと気付いて起き上がろうとすれば右手に違和感を感じた。
「…徹君…?」
右手の方に視線を移せば、私の手をしっかりと握ったままベッドに突っ伏して眠っている茶髪の男の子が視界に入ってきた。間違えるはずがない、この男の子は徹君だ。
そうか、徹君と話してて意識失ったんだ。運んでくれたのかな、また心配かけちゃった…
私がそっと彼の髪に手を伸ばして撫でると、ピクリと動いた身体。起こしちゃったかな?と慌てて手を引っ込めれば様子を見つめてみる。
「ん…京香ちゃん…?」
「おはよ、徹君。ずっとついていてくれたんだね…ありがとう」
まだ寝ぼけているような徹君にクスクスと笑いながら見つめる。するとはっきりと目が覚めたのか、いきなりガバッと頭を上げるものだからビクッとした。
頭を上げたことによって彼の表情がよく見える。とても安心したような、大きな目をもっと大きくさせ口元は少しだが震えている。
「う、わっ!」
「良かった、本当に良かった…京香ちゃんが目を覚ましてくれて…」
徹君?と言おうとしたのだが、いきなり彼が覆い被さってきたのでその声は短い悲鳴へと変わった。
何だか昨日の出来事のようだ、徹君が強く私の服を握ったのがわかったので手を伸ばせば背中を撫でる。
「ごめんね心配かけて…打ったとこは痛いけど、他は大丈夫みたいだから…」
「そっか…でもちゃんと病院に行って」
私がニコリと微笑むと、小さく微笑んでくれた徹君。ゆっくり身体が離れれば、また椅子に座った彼は私の手を握って安堵の息を漏らした。大丈夫、というように握り返せば何やら決意したような表情の徹君。
「俺ね、昨日の午前中に京香ちゃんが飛雄の自主練付き合ってたのたまたま見てたんだ。京香ちゃんも飛雄も楽しそうにやってて、やっぱり京香ちゃんは天才であるあいつを評価するのか…また俺はあいつに負けるのかって、焦ってた」
そんなことない、と口を挟もうかと思ったのだが表情を見る限りそのことは彼に伝わったのだとわかれば、私はただ相槌を打った。