第4章 磨斧作針ー3日目ー
ー及川sideー
そのノートには見覚えがあった。ペラッと何気なく表紙をめくってみれば彼女の字でびっしりと何かが書かれていた。
大地君の癖、孝支君の癖……
どうやらこのノートは彼女からみた烏野の癖が書かれてあるらしい。恐らく全員分、キッチリとした文字で書かれている。
烏野はこんなにも彼女に見てもらってるのか、そう思えば胸がチクリとして思わず苦笑した。今まで味わったことのないこの感覚。俺は烏野と彼女の関係に嫉妬しているらしい。
飛雄のことも書いてある。主導権を握る癖、もっとスパイカーに勝負させても良い。…正しくその通りだと思った。夏休み前、飛雄が俺に頭を下げてきたのをふと思い出した。
あの時、あいつに主導権の話をしてから少し変わった気がする。全く恐ろしい奴だ。それでも尚、成長しようとしている飛雄が怖かった。だから俺はまた……
未だ眠っている京香ちゃんを見れば、拳を握り締めた。
それからまたページをめくれば思わず手が止まった。
このノートには烏野だけじゃなく、俺たちのことも書かれてあったのだ。同じように彼女の字でびっしりと。
徹君の癖、一君の癖……
あぁ、彼女は俺たちのこともちゃんと見ていてくれていたんだ。飛雄の自主練に付き合っていたように、俺にも付き合ってくれるつもりでノートを抱えて来てくれたのか。
それなのに俺は、彼女は天才の飛雄に教える方が良いんだって勝手に思い込んで、自分を追い込んでこのザマだ。冷静に考えれば、誰かだけを贔屓するようなそんな女性ではないこと知っているはずなのに。
次のページには、俺のサーブの威力を上げる方法が書かれてあった。京香ちゃん自身も悩んでいるらしい、コントロールを犠牲にする代わりに、か…
いや、必ず俺はコントロールも完璧にしてみせる。京香ちゃんが俺にと書いてくれたアドバイス、必ずものにしてみせる。
そこに書かれていることを読んでイメージしてみた。そして頭に叩き込む。
うん、何度もやってみれば不可能ではなさそうだ。代表決定戦までには完成させる。
俺はそう強く誓った。
京香ちゃんを俺たちが全国へ連れて行く。そして頂きの景色に…
お願いだから目を覚まして、と手を握れば、いつの間にかそのまま俺は眠ってしまっていた。