第4章 磨斧作針ー3日目ー
ー及川sideー
「事情はわかりました。澤村くんは烏野のみんなに、岩泉くんは青城のみんなに、明日京香さんを病院に連れて行くので心配はしないでとお伝えしてもらえますか。先生方には僕から話しておきます。及川くんは、京香さんが目を覚ますまでついていてあげてください」
「え、先生っ…」
「ほらほら明日も練習ありますから、部屋に戻りましょう」
俺に向かってニコリと笑った烏野の監督。その指示に驚いている澤村くんと岩ちゃんの背中を押せば保健室から出て行ってしまった。
3人の足音が遠くなっていく。
保健室は静まり返り、京香ちゃんの小さな呼吸音が微かに聞こえるくらいだ。
「京香ちゃん…早く目、覚まして…」
とにかく君に謝りたい。感謝したい。いや、それよりも伝えたいことがあるんだ。漸く認めることが出来た自分の気持ち、君は受け入れてくれるだろうか。
再び京香ちゃんの手を握れば、そっと見つめる。
大量にかいた汗が冷えてひんやりとしてくる。
しかし、今はここを離れるわけにはいかない。
するとまた扉が開いた音が聞こえて振り返る。
そこには、俺のTシャツとジャージと何かを抱えた岩ちゃんだった。無言のまま、保健室に入ってくれば手に持っていた物を投げ付けられた。思い切りだ。流石岩ちゃん、見事に俺にクリーンヒットしたのだが。
ちょっと、京香ちゃんに当たったらどうすんだよ!なんて文句を言いたくもなったが、岩ちゃんの辛そうな表情を見たら何も言えなくなった。
「さっさと着替えろクソ川。てめぇが風邪ひいたら京香さん自分を責めんだろ…」
「岩ちゃん…俺のことそんなに心配」
「てめぇの心配なんざしてねぇよクソ!さっさと着替えろボゲェ!」
素直にありがとうなんて照れ臭くて言えないから、ちょっとふざけてみたらいつもの岩ちゃんで安心した。ベッド側の椅子から立ち上がれば、ごめんと一言伝えてから汗で冷たくなっている服を脱いで持ってきてくれた服を着た。そしてジャージも。
「京香さん起きたらすぐに知らせろ。花巻や松川も心配してっから。お前も…あんま無茶すんな」
ぶっきらぼうにそう言えば、俺が脱いだ服を持って保健室から出て行った岩ちゃん。その姿を見送り、いつの間にか置かれていた一冊のノートに気付けばそっと手に取った。