第4章 磨斧作針ー3日目ー
ー及川sideー
「今朝、飛雄と京香ちゃんが練習してるの見て…て、京香ちゃん?」
俺を優しく抱き締めてくれていた彼女の力が急に弱まった。
不思議に思って、目元をゴシゴシと拭ってからゆっくりと身体を離してみるとパタリと力なく床に落ちた腕。
頭が真っ白になった。何が起こったのだ。
俺は一体何をしてしまったのか。
「京香ちゃん!」
何度も呼び掛けても彼女の目は開かない。
身体を揺すってみても、変化はない。
「オイ!何してんだ!」
「あ…岩ちゃ…京香ちゃんが…京香ちゃんが!」
「…京香さん?てめぇ何したんだよ!」
「わか、ない…急に…京香ちゃんの力が弱くなって…岩ちゃん…俺…っ」
「とりあえず落ち着けボゲェ!…呼吸はしてる。すぐに保健室に運べ。先生呼んでくる」
混乱している俺に駆け寄ってきてくれたのは岩ちゃん。恐らく、中々戻ってこない俺と京香ちゃんを心配して探しに来てくれたのだろう。岩ちゃんの顔を見ると少しだけ安心した。
そして、思いっきり頭を殴られれば少し冷静を取り戻した。岩ちゃんの言葉に頷いて、そっと京香ちゃんを抱き上げる。彼女は思った以上に軽かった。
頭を揺らさないよう、俺の胸に寄せさせて出来る限りのスピードで保健室を目指す。運びながらそっと彼女を見れば、胸が小さく上下しているのがわかり安心する。
保健室に着けば、少し乱暴に扉を開けてベッドにゆっくりと寝かせる。不安でいっぱいになりながら祈るように京香ちゃんの手を握った。
俺が勝手に焦って、あんなことしてなければ彼女は…
「及川くん!京香さんは…!」
いきなり扉が開いたと思えば、駆け込んできたのは烏野の監督。
その後ろには岩ちゃんと澤村くん。
「意識が戻れば大丈夫でしょう。及川くん、何があったのか話してくれますね?」
俺はコクリと頷いて、先程のことを話した。
どこから話せば良いのかと思ったが、体育館でオーバーワークしてたこと。京香ちゃんがそれを止めに来てくれたこと。彼女が床に頭をぶつけたこと。
岩ちゃんが怒っているのが表情でわかった。きっと2人だったら一発殴られるだけじゃ済まない程の。一層の事殴られたら、怒りをぶつけられたら楽なのに…なんて思った。